アヤカシ恋草紙
□参
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午後には総も回復したようで、授業に顔を出した。
授業中にも関わらず、ちょくちょく話しかけて来るので、時々現国の先生に睨まれる。
だが、先生が怒りに来る前に前の席の泰牙がうるさいと怒りはじめるのだ。クラスの様子を見るに、これは日常風景らしい。
隣の席の泰牙はやはり、授業を殆ど聞いていないようだった。
だがそれも日常らしく、明らかに寝ていても窓の外を眺めていても注意する教師は一人も居なかった。
ここに居るとふう痛の感覚が狂いそうだと、独り言ちりながら、それでも葵はここでの暮らしが少しずつ楽しみになっていた。
泰牙も、総も、智己も、三人と一緒に居るのは楽しいのだ。
(これで、恐ろしい事さえ起きなかったら、俺はここでとても楽しくやってけそうなんだけど)
六田の事は忘れられない。
ここの生徒が悪い人ではないと言われても、一緒に授業を受けている何人かが人とは違うのだと思うと、やはり怖い。
自分の知らない世界と隣り合う事は、一筋縄では行かない。
だが何かあったら頼るようにと言ってくれた三人が居てくれる事が、ずいぶんと葵の心を軽くしていた。
そして…
その『何か』は、思ったよりも早くに訪れた。
放課後、新堂からは他の生徒にくっついて帰るようにと言われていた。
新堂の言いつけを破ったつもりはない。
ぞろぞろと教室を出て行く騒がしい集団にくっついて、確かに教室を出た筈だった。
人について角を曲がった筈が、いつの間にか誰もいなくなっていたのだ。
(おかしい…いつまでたっても下足箱に辿り着かない)
さっきから数百メートルは廊下を歩いている。
怖くなって後ろを振り向いたが、後ろは冷たい廊下が延々と続いているのみである。
葵は恐ろしくなって駆け出した。
(とりあえず……)
屋上へ
保健室へ(未定)
生徒会室へ(未定)