DIABOLIK LOVERS MORE BLOOD the Key of Fate

□プロローグ
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声が聞こえる。暗い闇に、一つの声が聞こえる。
俺はそこに一人で立っていた。
周りには誰もいない。
文字通り俺は、独りでーーー

『皆、どこ・・・?』

歩いても歩いても、そこには闇だけしかない。
どこかにぶつかることもなく、深い闇は続く。
だけど、目の前に小さく透明に光るものが見えた。
今にも消えそうだけど、力強く光っている。

『・・・二つ、ある。』

俺の前に一つ。
そして後ろにも一つ。
一つは弱々しく、もう一つは力強く光る。

『待って、消えないでっ!』

だけど、その弱々しい方の光は、段々と輝きを失う。
それに伴うように、力強く光っていた光も徐々に輝きを失った。
再び世界は闇に染まる。

『どうして・・・"うまくいかないんだ"・・・』

独りで立ち尽くし、目を閉じて闇と同じになろうとした。
だけどその時、背中に感じる暖かい光。
後ろを向けば、丸い黄色く光る球体がいる。
俺の傍を離れないように、光り輝く。

『・・・暖かい・・・』

手を伸ばせば、その光に何故か触れられた。
その時、俺の周りに次々と不思議な光が現れた。
白い光、青い光、赤い光、緑の光、紫の光・・・命を持つように、光っている。
その遠くに、全てを見守るように、灰色の光が一際輝いている。

『・・・・・・・』

俺の後ろにまた現れた透明な光。
だけどそれは、さっきのように光っていない。
まるで命を失ったかのように浮かんでいた。
中に何もない、透明なカプセルのような物だった。

『・・・"行って"・・・』

自然と口から出た言葉。
なんで、こんな事を言ったんだろう。
言わなきゃいけない気がした。
俺の言葉を合図に、周りの光が、その透明な球体に向かう。


ーーーさぁ、とっとと支度をなさい!後20分でリムジンが迎えにきてしまいますよ!


『んっ・・・』

レイジの声で、目が覚めた。
ゆっくり起き上がり、欠伸をする。
夢を見た気がするけど、うろ覚えでしかなかった。

『夢・・・見てた気がするけど・・・ふぁ、着替えないとレイジが煩い。』

ベットから起き上がり、制服に腕を通す。
英国校からの手続きが終わり、今はシュウと同じ学校に通う。
髪を整え、ピアスも付け直し、チョーカーもしっかり首に付ける。
部屋を出て廊下を歩いていれば、ユイちゃんと偶然出くわした。

「えっと、忘れ物ないかな・・・今日は確か国語と数学と英語・・・辞書は学校にあったっけ・・・
あ、図書室に本も返さないと・・・期限が確か今日か明日の・・・っ・・・!?」

『危ないっ!』

鞄の中を確認しながら歩いていたユイちゃんは、下にいた障害物に足を取られた。
転びそうになった所を抱きとめる。

『大丈夫?』

「は、はい・・・」

「った・・・」

下から聞こえる弟の声。
目線を向ければ、そこには制服に身を包んだシュウが寝ていた。
片目を開けてこっちを見るシュウは明らか機嫌が悪い。

「シュ、シュウさん!?」

「俺寝てたんだけど・・・足で踏みつけて起こすか・・・」

『そこに寝てるシュウが悪いんでしょ?たく、レイジに怒られるよ?』

起き上がったシュウは頭をかきながら立ち上がる。
ユイちゃんを抱きとめた手を離す。

「ご、ごめんなさい・・・!」

『謝らなくていいよ、ユイちゃん・・・』

「はぁ、目が覚めた・・・謝られてもしょうがないんだけど・・・」

ほんとユイちゃんは不思議な子だよ。
健気で素直で、俺の弟達に振り回されてるのに全然めげないんだもん。

「はぁ、めんどくさい。直接言わないと分かんないのか?」

「え・・・!?きゃっ・・・!」

シュウは突然ユイちゃんを抱き寄せる。
いきなりの事でビックリしたユイちゃんは鞄を落とした。

「血だよ。あんたが俺に償えるとすれば・・・それしかないだろ。」

「っ・・・そんな・・・確かに踏んだのは悪かったですけど・・・」

「悪いと思うなら・・・あんたにしか、出来ないことがあるだろ。」

俺は床に落ちたユイちゃんの鞄を取り、事の成り行きを見守った。
吸う直前に止めればいいかなぁ。俺止める権利ないしねぇ。

「私の血を吸ってくださいって、言えよ・・・それで償え。まだまだあんたには、躾が足りないみたいだな。」

「おい、邪魔だ。」

シュウが首筋に顔を寄せた時、俺は流石に止めようとした。
だけどそれより先に、スバルが声をかけた。

「あぁ?」

「廊下でガタガタやってんじゃねぇよ。つか、お前も見てねぇで止めろ!」

『えー?だって俺、部外者だしさ。吸う直前に止めればいいかなって・・・』

ユイちゃんを離したシュウは、めんどくさそうに頭をかき、溜息をつく。
鞄をユイちゃんに渡せば、丁寧に頭を下げる。

「朝飯の邪魔をするな。」

「ちっ、朝からがっつくんじゃねぇ。」

朝・・・うん、まぁ俺達にしたら朝だね。
人間でいうとこの時間は夜だけど・・・

「うるさい。もういい。そいつ連れてどっか行けよ。」

「ちっ、行くぞ。」

「あ・・・う、うん・・・」

スバルはユイちゃんを連れて廊下を歩いていった。
壁に寄りかかり、二人の姿が見えなくなった時、口を開いた。

『少しはユイちゃんからかうのやめなよー?』

「別に。あいつが悪いんだ。気持ち良く寝てたのに・・・ふぁ、ねむっ・・・」

『はいはい。ほら、行くよ。そろそろリムジンが来る時間だから。』

「はぁ、めんどくさい。」

俺はシュウと一緒に屋敷を出た。
既にリムジンは止まっていたが、なんでか車内が騒がしかった。
レイジの怒る声が聞こえたり、カナトの泣き声が聞こえたり・・・
その声を聞いてシュウは大きな溜息をついていた。
車内に入れば、更に騒がしくなる。
結局レイジの喝で静かになり、予定の時間より少し遅れてリムジンは出発した。

「まったく。誰の隣に座るかというだけの話で、よくもまぁあんなに騒げるものですね。」

「大事な事だろ。こいつの血はオレ達全員の物なんだぜ?」

「そうですよ。横取りされないように見張っておかなくては・・・」

結局席はいつも通り。シュウの横にユイちゃんと俺。
ユイちゃんの隣にレイジ、スバルと座り、俺の隣にアヤト、カナト、ライトが座った。
さっきからユイちゃんは下を向いて何かを考え込んでるみたいだった。
それに気付いたスバルが声をかける。

「おいユイ、ぼーっとしてどうした。」

「・・・んふ。何か考え事の最中みたい。ねぇ、僕の事が頭から離れないのは分かるけど・・・」

「俺のせいか・・・?」

スバルにユイちゃんを頼んだ時に何があったの・・・
って言うか、スバルいつの間に名前呼びに・・・まぁ、仲良くなったのはいいことだね。
前と違って、誰がユイちゃんを自分の物にするっていう争いはなくなった。
今はユイちゃんの血は、逆巻全員の物って事になっている。

「眠いんだろ?」

「お前じゃねぇんだぞ。おい、ユイ・・・」

「え・・・!?あ・・・」

スバルに声をかけられ、ようやくユイちゃんは顔を上げて反応を返した。
全員の視線がユイちゃんに向けられていた。

「よくこの状況で考え事なんてしてられますね。ねぇテディ、無神経だよこの子・・・」

「ご、ごめんなさい。何か話しかけられてた?」

「ちっ、別に・・・」

「そ、そう?」

その時、急に車がガタンと揺れる。
いつものなら静かな運転なのに、いきなりだった。
車内がガタガタ揺れ、強い衝撃が走る。

「え・・・!?」

「ぬおっ・・・!?」

「へ?何事かな・・・!?」

『うわっ!?』

「きゃあ!!!」

車体の横から何かで殴りつけられたような強い衝撃が走る。
視界が反転し、リムジンが横転したんだと気付いた。
だけど身構えることが出来なくて、ガシャンという音と共に俺の意識は闇に沈んだ。
深い深い闇の中で、また声が聞こえた。



【お目覚めかな、ヨウ。
本当はこういう事をしなくてはならないのは、些か気が引けるのだが・・・お前は少々私を焦らせすぎた。
お前の力に任せて、自然と林檎が熟すのを待っていたというのに・・・林檎は腐り落ちてしまった。
腐敗の原因はなんだと思う?分からないかな?いいだろう・・・次に会った時、お前に腐敗の原因を教えてあげるよ。】



「おい、ヨウ!」

『うっ・・・っ・・・アヤ、ト?』

目を開ければ、目の前には焦ったように叫ぶアヤトがいた。
俺が名前を呼べば、アヤトはほっとしたように息を吐く。
ゆっくり起き上がれば、隣にユイちゃんがいて俺の身体を支えてくれた。

「目覚めたようですね。まったく・・・ビックリさせないでくださいよ。」

『さっき、夢の中で・・・』

夢で聞こえた声が、やけに耳に残っていた。
あの言葉の意味、なんなんだ?

「夢?なんの事かな?」

「事故のショックで混乱しているのでしょう。まったく、人騒がせな・・・」

『事故・・・そうだ、俺・・・』

レイジの言葉で何があったのか思い出した。
周りを見れば、俺達の乗っていたリムジンは横転していて酷い有り様だった。
よく、無事だったな・・・

「たく、ヨウは気を失ってたんだ。」

『え・・・』

「ヨウさん、私を庇ってくれて・・・それで・・・」

ユイちゃんの言葉に、俺はあの時の事を思い出した。
そうだ。ユイちゃんは人間だから、怪我したら危ない。
そう瞬時に判断した俺は、シュウとユイちゃんを抱き寄せて身を守った。
その時に、シュウの声が聞こえた気がした。

「無事だったからよかったものの、犯人はどこに消えたのかと話していたのです。
この私達の、車に当て逃げとはいい度胸だ。」

「人間の仕業なのか?」

「うちの車は魔界の使い魔の運転ですよ。人間の所業ではないでしょうね。」

確かに、逆巻の車に当てられるのは人間ではない。
恐らく人間以外・・・もしくは、同族。

「ふぅん。じゃあ、魔界の誰かか、闇の血族の仕業って事かな。」

「そうなんじゃないですか?」

「まぁ、恨まれる理由なんて死ぬほどある家だ。特に珍しくもないだろ。」

父さんが裏で何をやっているのかわからないけど、昔はよく襲撃されていた。
スバルの言う通り別段珍しくもない。
考えれば考える程、恨まれるような事しか思いつかない。
静まり返る空気を壊したのはシュウの溜息だった。

「あぁ、だりぃ。どうでもいいわ正直。はぁ・・・」

「とにかく、一旦ここを離れましょう。後処理は使い魔に任せます。」

「このまま行っちゃっていいんですか?」

ユイちゃんは心配そうに声をかけた。
まぁ、使い魔に任せた方が確実だし、いつまでもここにいたら騒ぎを駆けつけて誰かが来るかもしれないからね・・・

「残っても面倒な事になるだけでしょう?それとも、あなた一人でここに残りますか?」

「い、いえ・・・」

『皆、早く離れるよ。』

俺達は横転したリムジンから離れる。
嫌な風が街路樹を揺らす。
この先、何もないといいけど・・・



ーーーねぇ、俺達の仕業だって気付いてるよね?

ーーーふぅん。やるじゃねぇかよ、あぁ?

ーーーイブ、迎えにきたよ。

ーーーあの方の思し召しだ。慎重にいくぞ。イブ、ティファレト・・・待っていろ。






〜プロローグ END〜

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