吸血鬼の空間A

□甘美で淫靡な密室空間
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「それじゃあエム猫ちゃん達!?今日は俺のライブに来てくれてありがとう!すっごい楽しかったよ!
次のライブではもっとエム猫ちゃんを虜にさせちゃうから、覚悟しててね?」

嘘偽りの笑顔で舞台から声をかける。
俺のカラーで彩られたペンライトの光が辺り一面に広がる。
まるで花畑のように、ユラユラ揺れて…
"アイドル"の"無神コウ"ただそれだけの俺しか知らないのにチヤホヤされても嬉しくもないんだよ。
上辺だけの仮面を付けた俺しか知らないのにさぁ。

「お疲れ様、コウ。」

「マネージャー、次のライブ数ヶ月先まで入れなくていいよ。」

ライブが終わって舞台袖に行けば、タオルを差し出すマネージャー。
それを受け取り、適当にスタッフに挨拶をして楽屋へと向かう。
ほんとファンの人間も関係者の人間も"アイドル"の"俺"しか見ていない。
俺自身を見てくれる人間なんて…

「ぁ、お疲れ様。コウくん。」

楽屋に入れば、フワッと香る甘い香り。
香水なんて付けていないのに薔薇の匂いが鼻を擽った。
だけどその匂いは、今目の前にいる彼女が発してる血の匂い。
痺れるような甘い血を持つ彼女は俺達"ヴァンパイア"を魅了する。

「ユイ…」

「わ、コウくん?」

ライブの疲れが出たのと、大好きなユイに会えたからなのかホッと肩の荷を降ろした。
ユイを抱き寄せ肩口に顔を埋めれば、優しい手つきで頭を撫でられた。
俺の髪で遊ぶように指先に絡めたりしているのを感じて、心が軽くなっていくんだ。
ユイだけは俺を見てくれる。アイドルの俺なんかの仮面を壊して、俺を見つけてくれた。
ほんと、君には敵わないよ。

「ユイ、来てくれてありがとう。」

「ううん、歌ってるコウくんかっこよかったよ!」

ファンのどの子に言われても心なんて動かなかった言葉。
でもユイに言われると何故か嬉しくなるんだ。
腰を抱き寄せ、ぎゅっと強く抱きしめる。
最初はアダムに覚醒するために必要な子ってだけだったけど、今じゃ傍にいてくれなきゃ落ち着かない。
こんなに君は、俺の中で大きな消えない存在になってるんだ。
ユイは、知らないだろうけどね?

「コウくん、もう帰れるの?」

「うん。衣装着替えれば後は、ッ…ユイ、こっち…」

「えっ、コウくん!?」

革靴の音が楽屋に近づいてくる。
誰の足音かなんてすぐ分かるんだ。
これはマネージャーの足音。
きっと明日の仕事の打ち合わせだとか言うに決まってる。
俺は早く帰りたいんだよ。電話で済ませてよね。
ユイの手を引き、楽屋に設置してある衣装用のクローゼットに二人で入る。

「コウ、明日の仕事内容だが……って、はぁ、相変わらず帰るのが早いな。」

タイミングよく、マネージャーが楽屋に入ってきた。
俺はユイの腰を抱き寄せ、声が漏れないようにキスをした。
暗く狭い密室じゃ、身体が密着し合ってドキドキする。
ユイの心臓の音も凄いドキドキしてる。

「ん、ッ、ふ、ぁ…」

「は、ぁ…ユイ、しーっだよ?は、んぅ…んっ…」

マネージャーが出て行くまで、ユイの唇を塞いだ。
ふっと目を開ければ、瞼を閉じてピクピク震えているユイが目に入る。
必死に俺のキスについていこうとしてる姿が可愛くて、もっといじめたくなった。
人間は夜目が効かないからね。俺からは顔を真っ赤にしてるユイが丸見え。

「ふぁ、コウく…んっ…」

「はぁ、行った、かなぁ…可愛い、ユイ…」

ドアが閉まる音がして、楽屋の中が静寂に包まれる。
だけどクローゼットの中はユイの息遣いが響き、官能的な空気が流れた。
俺のキスで熱くなったユイの血は吸われたいと主張するように甘い匂いを発する。
それはまるで花の蜜のように…
ユイの頬にキスをし、そのまま首筋に下がり舐める。
俺の小さな行動に一々ビクビク反応する姿が可愛い。

「ユイ、欲しいよ…吸っていい?」

ライブの高まりがまだ治らないのか、ユイを求めちゃう。
きっとライブだけじゃないと思うけど、ユイの血の匂いは俺をダメにする。
耳元で甘く囁けば、耳まで真っ赤にしている顔が目に入った。
耳朶を甘噛みしながら答えを待っていれば、ユイは微かに首を横に振った。
これは、振られちゃったかなぁ。
ユイの嫌がることはしたくないから止めようかと離れれば、ぐっと俺の服を掴んでくる。
そして、小さな声でこう言った。

「せっかくの衣装、汚れちゃう、から…」

空耳かと思った。
まさか衣装の事を気にしてるなんてね。
こんな衣装どうなってもいいのに…
でも、そういうところ大好きだよ。

「じゃあ、脱がしてよ。俺ボタン外すの苦手なんだよね。ユイが脱がして?」

「ッ…じゃあ、外に出て…」

「ダメ。いいシチュエーションじゃない?狭く暗い密室のクローゼットの中、本能のまま乱れ合うの…」

そう耳元で言えば、ユイは辿々しい手つきで俺の服に手をかける。
上だけでいいよって言えば、コクンと頷く姿が見えた。
ユイからは見えないのか、中々ボタンを外すのに苦労していた。

「ふっ、ははっ、そこ擽ったいよ。」

「ぁ、ごめんね。上手く出来なくて、暗闇にも、慣れてないから…」

「ううん、いいよ。待ってるから。」

数分かかって、やっとボタンを外せたユイはホッと息を吐いた。
ありがとうって気持ちを込めて額にキスを落とす。
首筋に俺のものだって印を刻んで、甘く牙を立てる。
それだけでユイは身体を震わせた。
まだ牙刺してないのに、ヨさそうな声出しちゃって…

「ユイ、まだ人いるかもしれないから…抑えてね…はー、んぅ…」

「コウ、くッ――――!」

ぶつっと柔らかい肌を突き破り牙を突き刺す。
甘い血が口内に溢れ出したのを喉を鳴らして飲む。
外してくれた上の服を脱ぎ捨て、ユイの腰を抱き寄せて一心不乱に血を吸う。
耳元で聞こえるユイの甘い声を聞いたら、もう我慢なんて出来ない。

「ん、ぁ…は、ぁ、コウく…んんっ…」

「はぁ、ッ…ヤバイ、止まらない…美味しいよ…は、ぁ、んぅ…」

ガクガクと震えるユイの腰を支え、牙を抜いた痕から流れる血を舐めとる。
甘美で淫靡な密室での吸血。
ユイの息遣いも表情も全て見える。

「ぁ、ん…コウ、く…」

「んっ、なに?」

俺の髪を撫でるユイの顔を見つめる。
トロンとした表情は完璧に牙に酔っている女の顔。
妖艶で綺麗な俺の大好きなユイの表情。

「コウくん。大好き。」

「ッ…あぁ、もう…そんな事言うと止まらなくなるでしょ?覚悟してよね、ユイ。」

暗く狭い密室の中。
甘く淫靡な官能時間。
俺とユイだけの空間。
大好きと言ったユイの表情は、嬉しそうに笑っていた。
綺麗で可愛い、俺だけの特別なエム猫ちゃん。
俺を一人占め出来るのはユイだけだよ。





〜END〜
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