吸血鬼の空間A

□重なる想い〈秘めたる願い〉
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なんで俺があいつに振り回されなきゃならない。
俺は忠告したはずだ。俺に関わるなって・・・
だけどあの女は、俺から離れなかった。
近づけば近づく程、不安が増えていった。
きっと俺に関わればあいつみたいに、"エドガー"みたいにいなくなるんじゃないかって。
だから俺は突き放したのに・・・なんで俺が・・・

「おい、ユイ!」

「シュ、ウ・・・よかった、信じて待ってて・・・」

木々の隙間から見えた赤い光。
嫌な予感だった。身体が無意識に震える。
過去の記憶が蘇る。逃げたい、逃げたい。
だけどあいつを放って逃げられなかった。

思ったとおり、無神の屋敷の一部が火に飲み込まれていた。
一気に記憶が蘇った。最初は逃げようと思った。
あいつがいなくなれば、もう辛い思いをしなくて済むと思ったから。
だけどもう遅い。あいつの事が頭から離れなくなった。
意を決して火に飛び込み、一目散にあいつの気配を辿った。
もう誰も、失いたくない。無力な自分は、もう嫌だ。
燃え盛る屋敷を駆け、いざユイを見つけて抱き上げれば、口を開いたユイの言葉が心に響いた。

「もう、俺にこんな手間をかけさせるな。」

「うん、ごめんね・・・ごめんね、シュウ・・・」

ユーマも無事だったらしく、俺とユイは火に飲み込まれる無神の屋敷から脱出した。
だけどほっとしたのか、ユイはふっと気を失った。
この時はまだ、幸せな時間がこれから続くと思っていた。
奪われる事もなく俺の腕の中に戻ってきたユイと、過ごしていけるって・・・
でもそんな時間なんて、人間とヴァンパイアの恋を許してはくれないんだな。







屋敷に帰ると、俺の腕の中で眠るユイを気にかけてか、全員が集まってきた。
ユイの部屋に入りベットに寝かせた。
俺はベットに座り、眠るユイの頭をそっと撫でた。
ユーマに言われて俺を信じて待つなんて、ほんと馬鹿な女。
逃げればいいものの、俺を試したのか・・・
まぁ、それにまんまとハマったのは俺だが。

「ん・・・っ・・・」

「っ・・・ユイ?」

ユイが目を覚ましたのは、屋敷に帰ってきて数時間後だった。
ベットには俺が、入り口付近には他の兄弟がその光景を見ていた。
俺を見つめたユイは数回瞬きをした。
だけど、中々口を開かないユイに俺は不安になった。

「ユイ、どうして黙ってるんだ?何か・・・」

あぁ、なんで嫌な予感ばかり当たる。
俺の問いに口を開いたユイの言葉に、頭の中は真っ白になった。
どうして俺の大切な者は、俺を置いて行くんだ?

「あなた・・・・・・・だれ?」

俺を見つめて、ユイはそう言った。
信じられなかった。ユイがからかってるんじゃないかと思っていた。
頭に浮かんでいたある言葉を消すように、自分にそう言い聞かせる。
ユイの肩を掴んで真っ直ぐに目を見つめた。だけどユイは俺を見るだけで何も言わない。
その表情が全てを物語っていた。初めて会った奴に見せる、表情をしていたから。

「・・・何、言ってるんだ。俺が、分からないのか?俺に自ら近づいたくせに、離れるのか?おい、ユイ!」

「やめなさい。あなたが取り乱してどうするのです。一番不安なのは彼女なのですよ?あなたは自室にでも言って頭を冷やしなさい。」

レイジにそう言われて、俺は従うしかなかった。
今はレイジの言う事が正しかった。
取り乱したままじゃ、ユイを不安にさせる事は目に見えている。
力無くベットから立ち上がり、レイジの横を通り過ぎた。
俺らしくもない「ユイを頼む。」と言って。
その言葉にレイジも他の兄弟も驚いていたが、レイジは軽く微笑むと頷いた。
ユイの部屋のドアを閉め、寄りかかった。
思い出してくれることを祈りながら、名残惜しむかのようにドアを一撫でして、自室へと足を向かわせた。


ーーー思い出せ、ユイ・・・っ・・・
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