DIABOLIK LOVERS The chain of fate and blood

□決着
1ページ/6ページ






その場が、静寂に包まれた。
コーデリアの言った一言で、空気が止まった気がした。
ああ、聞きたくなかった。皆に、言いたくなかった。
なんで今、なんで・・・

『っ・・・』

「あら、もしかしてまだ言ってなかったのかしら?ごめんなさいね、ヨウ。口、滑らせちゃったわ。
本当の長男はシュウじゃなくて、あなただって!」

目の前の女を殺したい程憎んだ。
俺がそのことで葛藤していたのに、この女は平気で俺の領域に入って踏み荒らして行った。
それだけならいい。俺だけが被害者になるなら、まだいいんだ。
それなのに、シュウまで巻き込んで・・・関係ないユイちゃんまで乗っ取って・・・
ただ自分が退屈しないように、あの人に復讐するためだけに蘇ろうとしているあなたの身勝手さが許せない。

『許さない・・・あなただけは、絶対に許せない。』

「ふふっ、どうするのかしら?ヨウ、あなたに私を殺っ・・・っ!?」

銀のナイフを手から奪い、俺はぐっと引き寄せ抱きしめる。
まだ、ユイちゃんはいる。この中で、必死にコーデリアを追い出そうとしてるはずだ。
君は強い。そんな小さな身体のどこに強さがあるんだろうね。
俺はそんなユイちゃんに、どこか惹かれてるのかもしれない。
だから、俺は追い出す手助けをするだけ・・・

『・・・ユイちゃん、いるよね?俺の声、聞こえてる?君を信じてる。
少し苦しいかもしれない。痛いかもしれない。でも、俺は君を信じてる。
だから、もう少し頑張って?今、助けてあげるから。』

耳元で、コーデリアの中にいるユイちゃんに向かって囁く。
聞こえてるか分からない。だけど、信じたかった。
もしかしたら俺の力と反発するコーデリアの力で負けるかもしれない。
それでも俺は、君の事を信じてる。
だから・・・覚悟決めるよ。

「何を、する気・・・」

『あなただけを、この身体から追い出す。コーデリア、あなたには消えてもらう。』

銀のナイフを床に落とす。切っ先が床についたカツンと言う音を合図に動く。
ユイちゃんの腰を支え、左胸に手を翳す。
ここにあなたの意識があるのなら、その意識を消せばいい。
心臓自体は殺さずに、あなたの意識だけを消し去る。

「や、めっ・・・あぁあああああああっ!」

ぐっと押し込むように力を注ぎ込んだ。
悲痛な叫びがエントランスに響く。

「コーデリア!ヨウ、貴様ぁ!」

『っ・・・!』

さっきまで黙ってたリヒターが、声を荒げる。
コーデリアを消される事に怒ってるのか・・・結局、この人に溺れてたんじゃないか。
振り向こうとした時、視界の端に部屋の明かりで反射して光る剣が見えた。

「振り向くんじゃねぇ!」

「がっ、あ・・・っ・・・」

アヤトの声が響いた。
その後に聞こえたリヒターの苦しそうな声に、大量の血の匂い。
俺が見ないように、アヤトは止めてくれた。

「てめぇは、そいつの事に集中してろ!今、オレの事見んじゃねぇ・・・」

『っ・・・アヤト・・・』

カランと剣が落ちる音が聞こえる。
そして同時にリヒター気配がエントランスから消えた。

「ぁああああ、よくも、よくも!」

『あなたは、自分勝手な人だ。なんで、こうなったのか・・・
なんで、アヤト達に殺されなければいけなかったのか、地獄でゆっくり考えてください。』

黄緑色の瞳が揺れる。
微かに見えた澄んだピンクの瞳。
まだ、生きてる・・・もう少し・・・

「許、さない・・・よくも、魔王の娘であるこの私をっ!」

「あんたはもう魔王の娘じゃない。あんたの心臓はその女の物だ。意識しかないあんたに、価値なんて存在しない。」

今まで黙ってた皆が口を開く。
一階に目を向ければ、シュウがまっすぐに俺達を見ていた。
他の皆も、溜息をついて真剣な目で見上げる。

「私が直接手を下しても良かったのですが、ここはヨウに譲りましょう。」

「あーあ、ほんとヨウ兄には敵わないなぁ・・・でもその代わり、後で聞きたい事はたーぷりあるけどね?」

「追い出さないで燃やしちゃえばいいんですよ。ぁ、でもそうしたらあの子に会えなくなるのか・・・
それは嫌ですね、テディ・・・」

「ちっ、銀のナイフ渡した意味ねぇじゃねぇか・・・おいヨウ、さっさとケリつけやがれ。」

あぁ、そうだね。
これが片付いたら、次は俺の番だ。
俺自身に、決着をつけなければいけない。
あなたがきっかけをくれた。
それを俺は最期のあなたからの優しさだと受け取っておくよ。
あなたが話してくれなければ、きっとずっと言わずに一人で抱え込んでただろうから。

『ありがとう、コーデリア様・・・・・・・・・さようなら。』

「ヨ、ウ・・・っ・・・あぁあああぁああああああ!!」

緩めていた力を、一気にかけた。
ビクッと跳ねたユイちゃんの身体は力を失い膝から崩れ落ちる。
俺も少し、疲れた・・・久しぶりに、ここまで力を使った。
ユイちゃんの身体を支えながら、俺も床に座り込んだ。
手を見れば震えが止まらず力が抜けている。
長引いてたら、俺が壊れていたかもしれない。

「終わった、のか?」

「みたいだねー?アヤトくーん、服着替えてきなよ。そんな血だらけじゃヨウ兄の前に立てないでしょー?」

「う、うるせぇな!てめぇに言われなくても着替えるっつの!」

ライトが一階から呼びかけると、文句を言いながらアヤトの気配が消えた。
俺の傍に来たレイジはユイちゃんを抱きかかえる。

「ここで寝かせておくのもアレでしょう。リビングで、詳しく聞かせていただきますよ?」

『っ・・・分かってる。』

レイジがゆっくりと階段を降りてエントランスからいなくなる。
周りを見渡せば、ライトがいつの間にかいなくなっていた。

「ヨウ兄、さっきの、母様が言ってた事、本当なんですか?」

『それは・・・』

「おいカナト、リビング行くぞ!話はそれからって言ってんだろ!」

スバルが無理矢理話を切って、カナトを連れ出してくれた。
エントランスからいなくなる間際、スバルがチラッとこっちを見た気がした。
スバルは兄弟の仲で、気を利かせるのがうまい。
こういう時、凄い助かるんだ。
残されたのは、俺とシュウの二人だけ。

「・・・言うのか?」

シュウが床に落ちた銀のナイフを取り、切っ先を眺める。
座り込んだ俺に手を差し伸べる。
俺はその手を掴み、シュウに寄りかかる。

「ヨウ・・・」

『言わなきゃ・・・本当の、あの事を・・・俺が、ずっと言うのをためらって生きてきたんだ。
今言わないと、きっともう、二度と言えない。だから、ちゃんと、言うよ・・・」

「・・・勝手にすれば。ヨウが決めたのなら、俺は何も言わない。これは、ヨウの問題だ。」

ほんと、精神的にキツイ事言うなぁ。
だけどそれが、シュウの優しい所だって知ってる。
シュウの言う通り、俺の問題だ。俺が終わらせなきゃ、この手で・・・


ーーー過去の深い闇の呪縛から、抜け出さないと・・・









リビングに移動すると、なぜかそこにライトがいなかった。
俺はソファーに寝かされているユイちゃんの傍に行った。
追い出せたはずだけど、ユイちゃんの精神が壊れていないか心配だった。
そっと頭を撫で、祈った。
逆巻の問題に関係ないのに巻き込んでしまった。

『ユイちゃん・・・』

念の為、レイジが薬を作ってくれていた。
もしかしたらコーデリアの意識が消えていないかもしれないから。
未完成だった薬は、カナトがテディの中に隠していたあの人の灰で完成した。
その薬を口移しで飲ませたけど、目が覚めない。

「ライト、お前どこ行ってたんだよ。」

「んー?ちょっと、ね・・・それより、ビッチちゃん大丈夫なの?」

振り向けばライトがいつの間にか戻ってきていた。
皆が心配そうに見つめる中、微かにユイちゃんの指が動いた。

『ユイちゃん・・・聞こえる?目、開けて?』

「んっ・・・ヨ、ウさん?」

ふっと目を開けたユイちゃんの瞳は綺麗な澄んだピンクの瞳。
俺をはっきりと見て、名前を呼んでくれた。
ユイちゃんの精神は壊れてなかった。
ほっとして思わず抱きしめた。

「あ、あの・・・えっと、聞こえてましたよ?暗い闇の中で、ヨウさんの声・・・」

『よかった。本当によかった。』

慌てながらも、はっきり言ってくれた。
顔を覗き込んでみても、牙は生えていない。
まだユイちゃんは闇に染まってない。
彼女には、普通に生きてほしいんだ。

「さて、一息ついて安心もした所で申し訳ありませんが、次はヨウの話を聞かせていただけますか?」

「ヨウ兄、さっきの話、本当なんですか?」

「お前がよ、逆巻家の長男って話・・・」

ユイちゃんも乗っ取られた中で聞いていたのか、不安そうな瞳で俺を見つめる。
裾を掴み、何か言いたそうだったけど、俺はユイちゃんの唇に人差し指を当てた。
きっとユイちゃんの事だから、無理に言わなくていいって言いそうだ。
俺は皆に向き合い、口を開いた。

『本当だよ。逆巻家の長男はシュウじゃない。俺だよ。』

その言葉に、皆は少し動揺した。
そうだろうね。皆はシュウが長男だって言われて、それを信じていただけなんだから。
だけどそれは、母さんと父さんが絶対に真実を言うなと屋敷の者に言いつけていたから・・・
レイジが産まれる前に、事件が起きたから・・・

「・・・それはヨウが血を飲めなくなった事件のことと関係があるのですか?」

「そうだよ。ヨウ兄が話してくれたじゃないか。
血が飲めなくなったっていうのは分かったけど、それと関係があるの?」

「あの話、半分は本当だけど・・・半分は嘘だ。それに、あの話にはまだ続きがある。」

シュウが口を挟んで言う。
やっぱり、あの時気づいてたのか・・・
本当はあの時に言ってしまおうと思ってた。
だけどやっぱり、自分の中で押し込めたんだ。
半分は本当だけど、半分は嘘。
あの話には、続きがある。

「では、全て話していただけますか?ヨウ、あなたが今まで隠していた真実を・・・」

「おいヨウ、もう嘘つくんじゃねぇぞ。もしついたら、ぶっ壊してやるよ。」

どこから、話せばいいかな?
前に話した、あの事件から、更に数ヶ月前・・・

『あの事件から、数ヶ月前・・・あの日、俺は・・・』

俺は口を開く。
本当の俺の真実を、今まで隠していた過去を・・・
今、明らかにしないと・・・俺はきっと、この先を進んでいけない。
暗い過去の封じられた呪縛から、俺は抜け出す。
大丈夫。皆がいる。俺は独りじゃない。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ