拍手の空間

□Merry Christmas〜2015〜
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Merry Christmas



肌を刺す冷たい風が吹く。
それとは反対に部屋の中は暖かく、テーブルの上には豪華な食事が並べられている。
みんなと一緒に魔界に来ていた私は、みんなが目を離した隙に連れ去られてしまった。
でもまさか、こんな事になるなんて・・・

「どうした?食べないのか?」

声をかけられ、はっと顔を上げた。
ニコニコとした私を見つめる表情に、少しほっとした。
緊張からか、出された食事が減っていなかった。

「大丈夫、です。」

「・・・緊張するのも無理はない。無理矢理連れてきてしまってすまないね。イブ。」

私は、何故かカールハインツさんと食事をしていた。
しかも、大きなテーブルに隣り合わせで・・・
豪華な食事も二人分とは思えない程の量。
それに、食器のセットが12個も用意してある。

「なに、すぐに全員集まる。気楽にいなさい。」

「は、はい。」

そう言われても、やっぱり緊張はする。
だって魔界の王様だし、みんなのお父さんでもある。
そんな人と今食事をしているなんて・・・

「・・・さて、イブは息子達の誰が好きなのかな?」

「え、えっ・・・!?」

ニコッと微笑んだカールハインツさん。
私の頬は一気に熱を持ち始める。
まるで息子の幸せを願うお父さん。
みんなが言ってる程、悪い人じゃないのかもしれない。

「あぁ、それともルキ達の方かな?始祖の生き残りの方かな?」

「え、えっと・・・誰が好きとか、まだ・・・」

「ふっ、ゆっくり選べばいい。イブに選ばれるべきアダムはいる。私はイブの意見を尊重するよ。」

そう言って、カールハインツさんは目を閉じて言った。
私が選ぶのを待っていてくれる。
時間がかかるかもしれないけど、いつかは一人を選ばないと・・・
その時、ガヤガヤと部屋の外が騒がしくなった。

「・・・来たようだ。」

そう言ったカールハインツさんは、とても嬉しそうな顔をしていた。
部屋のドアが開かれた先には、みんながいた。
逆巻家、無神家、月浪家・・・種族は多少違くても、こうして一緒にいられる。

「やっとご到着か・・・イブと先に食事してしまったよ。お前達、早く座りなさい。」

私の中で、いつの間にか緊張の糸は無くなっていた。
心から今のこの瞬間が幸せだから・・・
我儘だとは思うけど、今はこのままがいい。
そっと小声で言えば、カールハインツさんは何も言わずに微笑んでくれた。

「親父。脅迫状紛いな手紙残さないでくれる?色々と面倒だったんだけど?」

「ふっ、あなた様も悪戯が過ぎる。家畜、待たせて悪かったな。」

「カールハインツ。貴様、よく私達にも手紙をよこせたな。」

シュウさん、ルキくん、カルラさんの手には、逆巻の家紋が刻まれた手紙を持っていた。
どうやらこの食事会の招待状らしいけど・・・その中身は脅迫状紛いだったらしい。

「くそ親父、何が"0時までに私の城に来ないとイブと二度と会えなくなるよ"だ!ふざけんじゃねぞ!」

「アヤト、お父上の前です。控えなさい。」

一気に賑やかになった部屋で、カールハインツさんは笑顔を絶やさなかった。
この状況を楽しんでるような、わざとこうなるように仕向けたような・・・

「だが、お前達はそれでもここに来た。それだけこの子が大事という事だ。」

「・・・カールハインツ様には全て筒抜けのようだ。諦めろ、お前達。」

「あーあ、ルキくんが予想してた通りになったぁ!エム猫ちゃん、一緒に食事しよ!」

ルキくん、コウくん、ユーマくん、アズサくんは用意されていた椅子に座った。
頭を掻きながらめんどくさそうに席に着こうとしたシュウさんだったけど、カールハインツさんに呼び止められた。

「シュウ。お前は私の隣だ。逆巻の長男だからな。」

「・・・うっざ。」

そう言いながらも、シュウさんは渋々カールハインツさんの隣に座る。
カールハインツさんの右隣に私、ルキくん、コウくん、ユーマくん、アズサくん。
左隣にシュウさん、レイジさん、アヤトくん、カナトくん、ライトくん、スバルくん。
そして・・・

「兄さん、居心地悪いから帰ろうよ。ヴァンパイア達に囲まれて食事とか虫酸が走るんだけど・・・」

「ふっ、そうだな。カールハインツよ、始祖である私達と貴様らを同じにするな。私達はこれで・・・」

「カルラさん、一緒に食べませんか?生ハムありますし、シンくんの大好きなナッツもあるよ?」

そう言えば、二人の目付きがピクッと変わった。
二人は何かを考え、黙って用意された椅子に座る。
カールハインツさんと向かい合わせの位置だけど、二人はさほど気にしてないみたい。

「お前ら食いもんで釣られるとかねぇだろ!くくっ、まじそこは狼通り、獣だな!」

「カルラさん、シンさん・・・俺の、あげようか?だから、俺に、その唐辛子料理、ちょうだい。」

「ふっ、その女に免じてここにいる。決して食べ物に釣られた訳では・・・」

「このナッツすげぇ高い奴!俺が食べたかったのだ!兄さん、凄いよ!」

「・・・・シン・・・」

そんなカルラさんとは裏腹に、シンくんは目を輝かせていた。
カールハインツさんはニコニコしながらその光景を見つめている。
よく見れば、テーブルに並んでいる料理はみんなそれぞれ好きな料理だった。

「てか、親父。なんでいきなり呼び出したんだよ。」

「そうだよ。ビッチちゃんを誘拐してそれを餌にして呼び出すなんて・・・んふ。何考えてるのかなぁ?」

「納得行く答えを出してください。じゃないといくら父様でも起こります。ね、テディ?」

全員の視線が、カールハインツさんに向けられた。
そういえば、どうしてこんな事をしてみんなを集めたんだろう。
普通に呼んだんじゃ来ないのは目に見えてるけど、他に理由があるのかな?

「・・・窓の外を見てみなさい。」

「ぇ・・・わぁ!雪!!」

ふとカーテンが開けられた窓の外に目を向けた。
すると、いつの間にか外は真っ白い雪が降っていた。
真っ暗な空から降り続ける雪。
それを見て、今日がなんの日か思い出した。
カールハインツさんを見れば、ニコッと微笑み頷いた。

「私からお前達にプレゼントだ。今日は聖夜。せっかくの聖夜をみんなと過ごしたくてね。イブ、君もそれを密かに望んでいただろう?」

「ッ・・・カールハインツさん・・・」

「お礼はいいよ。今は楽しみなさい。」

周りを見渡せば、みんなが微笑んで私を見てくれる。
みんなと一緒に何かをしたかった。
仲が悪いから、絶対に出来ないと思ってたけど・・・
選ばれしイブだじゃら、ヴァンパイアだから、元人間のヴァンパイアだから、始祖だから。
そんなのは関係ないよ。大事なのは、この聖夜の日に一緒の時間を過ごせる事。
どんなに仲が悪くても、どんなに離れていようとも、大事だと思う人とは一緒にいたい。

「メリークリスマス!!」

いつもと違う雪が降る魔界。
振る舞われる豪華な食事。
賑やかな声。笑い声や喧嘩の声。
魔界での夜は、始まったばかり・・・










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〈 Merry Christmas。プレゼント、手袋くらいしか思いつかなかった。嫌なら返せ。〉

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