拍手の空間

□逆巻シュウ、ヨウ生誕小説2014
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【逆巻シュウ、逆巻ヨウ生誕小説2014】







季節は秋になり、涼しい夜風が肌を撫でる。
街並みは秋のイベント、ハロウィンの飾りで彩られている。
コートに身を包み、私は屋敷に戻る為に歩道を歩いていた。
アクセサリーショップの袋を片手に、賑やかな通りと街並みの景色に見とれていた。

「あれ?あそこにいるの・・・」

ケーキ屋の前に見慣れた人が一人。
周りの目も気にしてないように、店の中のショーウィンドウを見つめていた。
その姿はシュウさんと同じ。だけど違う、その人は・・・

「ヨウさん。」

声をかけると、私に気づいたのか振り向いた。
その仕草や表情は本当にシュウさんと同じだった。
髪型やチョーカーも逆で、ピアスもしてるからすぐ分かるけど、初めて会った時はびっくりしたなぁ。

『ユイちゃん、こんな時間に出歩くなんて危ないよ?』

ニコッと微笑んだヨウさんに私は駆け寄った。
時間は7時くらいだったけど、冬が近づいているため陽が落ちるのが早くなっていた。
闇がくる時間は、下級魔族が蔓延る。
それでヨウさんは危ないって言ってくれたんだろう。

「大丈夫です。それよりヨウさん、ケーキ屋の前で何をしているんですか?」

『ぁ・・・実は、今日ってシュウの誕生日なんだよね。それで、シュウにケーキ買いたいんだけど・・・』

今日は10月18日。シュウさんの誕生日だった。
だけどシュウさんって、甘いのが嫌いだったはず・・・
もしかしてその事で困っててじっと見つめてたのかな?

「もしかして、シュウさんが甘いの嫌いだから迷ってるんですか?」

『・・・う、うん。俺は甘いの嫌いじゃないけど、シュウがダメだからね。買おうか迷ってて・・・』

確かに甘いのがダメな人は沢山いる。
だけどそういう人達の為に甘くないケーキがあるのを私は知っていた。
それだったらシュウさんでも食べれるかな?

「甘くないケーキがありますけど、それだったらきっと・・・」

『ぇ、ほんと?じゃあ、一緒に買ってほしいんだけど、いいかな?』

ヨウさんは申し訳なさそうに言った。
男性が一人で入ってケーキを買うのはやっぱり人目を気にするんだろう。
私は快く引き受けた。
お店に入る時に、ヨウさんの手に袋が握られているのが見えた。

「その袋・・・」

『あぁ、シュウへの誕生日プレゼントだよ。』

やっぱり、シュウさんへの誕生日プレゼントだった。
だけど私はふと気になる点があった。
今日がシュウさんの誕生日なら、双子であるヨウさんも誕生日のはず。

「シュウさんが誕生日なら、ヨウさんも今日が誕生日ですよね?」

『ん?そうだよ?一緒に産まれたからね。でも、俺はいいんだ。シュウを祝えたら、俺はそれでいい。
祝ってもらえるような立場じゃないし、俺・・・』

そう言って笑った。
でもその笑みの裏に、切ない感情が見えた気がした。
なぜ、そんな顔して笑うんですか?
今日はシュウさんとヨウさんにとって特別な日。
心の底から楽しんで、笑ってほしい。
ヴァンパイアだって幸せになる権利はあるはずだよ。

『んー、どれがいいかなぁ・・・店員さん、甘くないケーキってどれですか?』

「あ、それでしたこちらの四種類ですよ?ふふっ、彼女さんにですか?」

「えっ?」

店員さんに言われて、ヨウさんは真剣に選んでいた。
だけど店員さんが言った言葉に、私はビックリしてしまった。
楽しそうにしてたから、間違われたのかな。

「え、私は別にそんなんじゃっ・・・」

『そうなんですよ。彼女、甘いのが苦手で・・・ぁ、これ一つ貰えますか?』

「優しい彼氏さんです?はい、かしこまりました!」

訂正しようとした言葉を遮って、ヨウさんは店員さんの言葉を肯定した。
私はビックリして固まっていたけど、にこっとヨウさんに微笑まれ、つられて笑ってしまった。
きっとその場での空気を壊さないように配慮してくれたのかもしれない。
ヨウさんは四種類の中から一つ、ガトーショコラを選んだ。
確かにそれなら苦味があるから、甘いのが苦手なシュウさんでも食べれるかもしれない。

「お待たせしました!」

『ありがとう。』

「は、はい!」

お金を払い、袋に入った箱を受け取ったヨウさん。
にっこりと微笑んでお礼を言ったシュウさんに、店員さんは頬を赤らめていた。
ヨウさんって顔立ちいいからモデルさんとかに間違えられそう。
私達はケーキ屋を後にして屋敷へと戻った。

『さっきはごめんね?彼女って言っちゃって・・・』

「いえ、大丈夫です。あの場じゃ仕方ないですよ。」

ヨウさんは屋敷に向かう帰路の中、ケーキ屋での事を謝ってくれた。
ビックリしたけど、彼女に見られてるんだって思うと、ちょっとだけ自惚れている自分がいた。
絶対に恋人みたいになれない関係だけど、それでも嬉しかった。
捕食者とエサ、人間とヴァンパイアって事に変わりはない。

「そういえば、小さい時とかってお母さんとかに祝ってもらってたんですか?」

『・・・誕生日、かぁ・・・そうだね。母さんと爺に祝ってもらってたかな。シュウと同じ一つのケーキ作ってくれてね?
だけどそれ以来は、全くだったかな。祝ってもらう事に抵抗があって、そこから誕生日なんて祝ってもらった事がないよ。』

気にもしてないみたいに、ヨウさんは話した。
お母さんに祝ってもらっていたのに、なんで抵抗があったんだろう。
それに爺って、使用人さんみたいな感じかな?使い魔とか皆よく使ってるし・・・

『だけどシュウの誕生日だけは、毎年祝いたいんだ。俺のエゴだけどね?』

「ヨウさんもシュウさんも、祝われる意味はあると思います。今日はお二人の日ですから・・・」

『・・・・ユイちゃんは優しいね。でも、いいんだよ。俺は・・・』

歩きながら頭を撫でられ、そう言われた。
ヨウさんが本当に笑ってくれたらいいのに・・・
いつの間にか屋敷の前に着き、私達は中に入った。
ケーキの箱をヨウさんに渡され、私はキッチンに向かった。
ヨウさんはシュウさんを呼びに行ったみたいだ。

「ごめんなさい。無理言って・・・」

「構いません。ヨウに言われてしまっては断れませんから・・・しかし、本当に似た事をする。」

キッチンでレアステーキを焼いているレイジさんに声をかけた。
冷蔵庫を開けて買ってきたケーキを入れた。
その代わりに中から取り出したのは、生クリームをたっぷり使ったショートケーキ。

「まさかシュウさんから頼まれた直後にヨウさんに頼まれるとは思いませんでした。」

前日にシュウさんから、今日のヨウさんの誕生日を祝ってほしいと言われていた。
そして誕生日の今日に、シュウさんがこれを買ってこいと言って、私はプレゼントを買いに言っていた。
その帰り道にヨウさんを見つけ、シュウさんの誕生日を祝ってほしいって言われた。
それにレイジさんも、シュウさんに言われてレアステーキを作ろうとキッチンに来た時に、ヨウさんに同じような事を言われたらしい。

「ヨウ兄ってサプライズ好きだけどシュウには勝てないみたいだねー?」

「シュウのおかげでケーキが沢山食べれますよ?テディ、よかったね。」

「チチナシ、ケーキなんかよりたこ焼き作れよたこ焼き!あんなダル男なんて祝わなくていいだろ!」

他の皆が、音も立てずにいつの間にかリビングにいた。
ヨウさんがこの屋敷にいた時は毎年らしく、ヨウさんがイギリスに行ってる間もレイジさんに使い魔を飛ばして祝ってくれて言われていたらしい。

「ヨウも同じ誕生日だろ、アヤト。」

「別に、祝いたくねぇわけじゃねぇけどよ・・・オレ様はたこ焼きが食えればいいんだよ!」

今日はヨウさんの誕生日でもあるのに、アヤトくんはシュウさんの事しか言わなかった。
それにスバルくんが訂正してくれたけど、妙にヨウさんの誕生日を祝いたくなさそうだった。

「アヤト、あなたが祝いたくない気持ちは分かります。ですが、今日くらいはヨウの事を祝いなさい。」

レイジさんが溜息をつきながらアヤトくんを説得させるように言った。
だけどそこにシュウさんの名前を言わずヨウさんの名前だけ出した。
二人、本当に犬猿の仲だから・・・

「ち、しかたねぇ・・・たこ焼き作ってくれんなら祝ってやる!」

その言葉に溜息をついたレイジさんに、作ってくださいと言われ、私はたこ焼きを作る事にした。
レアステーキ、サラダ、たこ焼き、チキン、私が作ったショートケーキをテーブルに並べた。
最後にヨウさんが買ってきたガトーショコラを置いた時、リビングのドアが開いた。
私達が帰ってから一時間近く経った後だったから、きっとシュウさんを起こすのに苦労したんだろう。

「ちょっとヨウ、なに・・・」

『いいからいいから!』

シュウさんを押して入ってきたヨウさんの顔は、楽しそうだった。
リビングの中を見渡したシュウさんはビックリしていた。

「お誕生日おめでとうございます、シュウさん!」

「・・・・・・・は?なに。あんた、約束が違うんだけど・・・」

暫く固まっていたシュウさんだったが、やっと口を開いた。
ヨウさんが嬉しそうに微笑みながらシュウさんを見ていた。
状況が私に言った時と違くて混乱していたシュウさん。

『今日はシュウの誕生日だろ?』

「いや、俺はあいつにヨウの誕生日を・・・」

「それから、ヨウさん!誕生日おめでとうございます!」

会話を遮って、私はヨウさんに向けて祝いの言葉を言った。
言われたヨウさんはビックリして私の方を向いた。

「・・・・・・・え?ユイちゃん、俺はいいからって・・・」

テーブルを見渡して、ふいにヨウさんの口角があがった。
きっと考えてることが同じだったって気づいたんだろう。

「ほんと双子だよねぇ?考える事一緒だよー?」

「ですが、今回はシュウの方が早かったですね。」

「ねぇ、早く食べましょう?僕、お腹空きました。」

「せっかくの料理冷めちまうしな・・・」

「突っ立ってねぇで座れよ、バーカ。」

既に座っていた五人に言われ、二人は顔を見合わせていた。
口角をあげて微笑んだ二人は本当に綺麗だった。
シュウさんも、あんな風に笑うんだ。

「『おめでとう。』」

二人はお互いに祝いの言葉を言って席に座った。
今日は特別な日。過去も未来も、捕食者とエサ、人間とヴァンパイアも今日は関係ない。
産まれてきた日を祝える一日だから。
闇でしか生きられない彼等にとって、唯一光を浴びれる日だと思う。


ーーーお誕生日、おめでとうございます!シュウさん、ヨウさん!







〜END〜



【P.S.(会話のみ)】


『はい、シュウ。誕生日プレゼント!』

「・・・開けていい?」

『当たり前でしょ?』

「・・・・・・あぁ、イヤホン。」

『シュウよく壊すでしょ?』

「それはあいつのせい。」

『ユイちゃんかな?いいんじゃない?シュウの事心配してるんだよ。』

「どうでもいい。付き纏われるのうざい。」

『そんな事言わないの・・・』

「・・・これ、俺からのプレゼント。あいつに買ってきてもらった。」

『ユイちゃんに?・・・あぁ、だから今日、あんな時間に外にいたのか。ダメだろ?ユイちゃん人間なんだから下級魔族にでも襲われたら・・・』

「あいつがどうなろうがどうでもいい。それより、早く開けて。」

『まったく・・・・・・・・これ・・・』

「確かそれでしょ?」

『俺が欲しかった新しいピアス!嘘、これ高いだろ!?』

「別にいい。今の所俺が欲しいのないから・・・ヨウにあげる。」

『シュウ・・・ありがとう!』

「・・・・別に・・・・・誕生日、おめでとうヨウ。」

『シュウも、誕生日おめでとう!』




ーーーHappy Birthday Shu and You




〜END〜

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