リクエストの空間A

□ヤドリギ
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『スバルー!スバルー!?いたら返事してー!』

梟の声が鳴り響く夜の森の中。
ざわつくように生暖かい風が肌を撫でる。
夜目が利くから転んだりしないで歩けるけど、こんな暗い森の中に一人は心細い。
スバルの側近の爺にスバルが屋敷を飛び出したと話を聞いた。
夜の森は何があるか分からない。
下級魔族だって彷徨くし野生の獣も・・・それに、人間に見つかったりしたら・・・

『くっそ、見つからない。スバル、どこに行ったんだろう。』

スバルが屋敷を飛び出して森に行くなんて事はない。
それなのにこんな夜の森に飛び出すなんて、見境がないよ。
俺の頭には爺に聞いた話がフラッシュバックのように流れてきた。
クリスタ様と会っている時に、急にクリスタ様が豹変したらしい。
スバルを見て怯え、発狂して・・・


ーーーいやぁあああ!来ないで!私を殺してぇええええ!

ーーーその目、その目よ!その目が怖いの!

ーーーなんであなたなんか産んでしまったの・・・


クリスタ様を壊したのは、スバルでも何でもない。
スバルは悪くないのに、それを自分のせいにして抱え込んでる。
全部悪いのは、父さんなのに・・・
その時、風に乗って声が聞こえた。
声を押し殺しているような、そんな啜り泣く声が・・・
俺は風の流れと声を頼りに歩き出した。
そして、辿り着いた先には・・・

『・・・スバル。』

「ッ・・・!?ヨウ、兄ちゃん・・・なんで・・・」

目を腫らして泣いているスバルがいた。
木に寄りかかって、細々と一人で声を押し殺して泣いていた。
俺顔を見てはっとし、頬を伝う涙をゴシゴシと拭う。
その手を俺は掴み、首を横に振る。
隣に座って、優しく声をかけた。

『ここには俺しかいない。誰にも屋敷を抜け出した事は言っていない。誰も探しに来ないから大丈夫だよ。』

スバルの爺に探してきてほしいと言われたのは黙っておいた。
今のスバルはきっと、誰も来てほしくないと思うから。
それに爺には誰にもこの事を公言するなって言っておいたから大丈夫。
俺が屋敷を抜け出した事もきっと誰も知らない。

『だからスバル、俺の前でだけは泣いていいよ?』

「ヨウ兄、ちゃん・・・ッ、うっ、ヒック・・・ぁあああああああ、ッ、ひっ、ぁ、あああっ!」

抱き寄せて頭を撫でれば、スバルは肩を震わせながら大きな声で泣いた。
今まで堰き止めていたのを全て吐き出すように・・・
俺は何も言わずに、スバルの好きなようにさせることにした。
泣き止むまで、何も言わずに頭を撫で続けた。
それでスバルの気が済むなら、俺はスバル泣き場所になるよ?

それからは、何かあるとスバルは俺の傍に駆け寄ってくるようになった。
俺も事情を知ってるから、追い返さずに部屋に招き入れる。
ぎゅっと抱きついてきて泣き止むまで頭を撫で続けてやる。
スバルは俺の前でだけは、抑えていた気持ち言えるようになっていた。




その時も確か、手を繋いで屋敷に帰ったかな。
黙って部屋に送り届けて、そのままスバルの部屋で寝てた気がした。
途中、誰にも言わずに屋敷を出てイギリスに行っちゃったけど、大丈夫だったのかなぁ。

「・・・ぃ。おい、ヨウ!」

『え、ぁ、どうしたのスバル。』

「どうしたのじゃねぇよ。何ボーッとしてんだ。寄り道すんだろ?」

声をかけられ、俺ははっとした。
学校を出た時に行っていた寄り道をスバルは覚えていたらしい。
まさか付き合ってくれるとは思わなかったなぁ。

『こっちだよ。俺のオススメのお店があるんだ。』

スバルの手を引いて、歩き出した。
繁華街とはちょっと離れた所にある喫茶店。
賑わってるお店もいいけど、静かで穏やかなお店も好きなんだ。
それにスバルはうるさいのが苦手だし、こっちの方が合ってる。
お店に入れば数人の客がいるだけの穴場な喫茶店。
好きな席に座ってメニューを開けば、紅茶や珈琲、ケーキや軽食などが書いてあった。
適当に店員に頼み、料理が来るのをじっと待っていれば、スバルがボソッと口を開く。

「なんで、急に喫茶店なんだよ。」

『・・・んー、スバルとこうやって出かけた事なかったし、たまにはお兄ちゃんとして可愛い弟に奢りたかったし?』

それに、こうでもしないと二人っきりになれないしね。
今までお兄ちゃんらしい事出来なかったし、寂しい思いさせちゃったと思うから・・・
まぁ、そんな事言ったらスバルに怒られそうだけどさ?

「レイジに怒られんぞ。」

『気にしない気にしない。たまにはいいでしょ?夜遊び。』

「ちっ、うぜぇ。それが長男の言うセリフかよ。第一、俺達に夜遊びとか関係ねぇだろ。」

笑顔で言えば、スバルに正論で返された。
確かにヴァンパイアに夜遊びとか関係ないよね。
毎日が夜遊びみたいなもんだし・・・
でもまぁ、長男とかは関係ないと思うけどねぇ。

『今日は俺に奢らせてよ。休憩終わったらお店回ろうか。好きな物買ってあげるからお兄ちゃんに言ってみな?』

「なっ、お兄ちゃんとか気色悪いんだ、ッ・・・くそっ・・・」

ちょうど店員が注文したのを運んできてくれたのを見て、スバルは言葉を閉ざした。
そんなスバルを見ながら、俺は口角を上げて今のこの時間を楽しんだ。
凄い睨まれてるけどね。

『ん、この紅茶美味しい。』

「レイジのとどっちがうまいんだよ。」

『んー・・・レイジかなぁ。淹れ方は完璧だしね。』

レイジの淹れ方は研究の成果じゃないかなぁ。
あんなに美味しく淹れられるのはレイジだけだと思うけど・・・
二人して同じ物を頼んで、味わった。
スバルからの口数は少なかったけど、二人っきりになれてるって事だけで俺は満足なんだ。
俺から一方的に話してるけど、スバルは嫌な顔せずに受け答えしてくれる。
そこがスバルのいい所なんだよね。嫌がらずに、ちゃんと付き合ってくれるんだから。

『んー、よし、行こうか。』

お金を払い、喫茶店を出た。
外に出ればさっきより涼しくなった風が肌を突き刺す。
スバルもぶるっと身体を震わせた。
手を差し出せば、スバルは少し戸惑ってから手を繋いでくれた。
体温がないけど、繋いでると不思議と暖かく感じるんだ。
一人で歩くより、二人でこうしてた方が暖かい。
繁華街に戻り、色々なお店を回った。
服屋だったりジュエリーショップだったり・・・
俺に付き合ってくれてるような感じだったけど、スバルもどこか楽しそうだった。

『あ、スバル。ちょっと待ってて?』

「あ?お、おう。」

たまたま見かけたお店のショーウィンドウ。
スバルに似合いそうなコートを見つけた。
お店に入ってコートを買った。
すぐに着るから袋はいいと言えば、入り口を見つめて店員が微笑んだ。
スバルが手の平を擦り合わせて寒そうにしてるのが見えたみたいだ。
お店から出れば、スバルは俺の持ってる物を見てビックリした。

「おまっ、俺はいいって言ってんだろ!?」

『んー?俺の好きにさせてよ。はい、スバル。ちょっと早いけどプレゼント。』

最初は拒んでたけど、俺が中々引かずにいたから諦めたようにコートを受け取った。
コートを羽織ったスバルは、俺の見立て通りとても似合っていた。
スバルもたまにはこういうの着ればいいのに・・・
これで少しは寒くないかなぁ。

「余計な事しやがって・・・っ、ん・・・」

『ん?』

「ッ、だから、繋がねぇのかよ!」

急にスバルが手を差し出してきた。
首を傾げれば、顔を真っ赤にさせながら言う。
俺はそんなスバルが愛おしくて思わず笑ってしまった。

「あぁ!?なんで笑うんだよ!」

『ふふっ。ん、いいよ。繋ごう。』

差し出された手を、今度は俺が握る。
昔と違って大きくなった。
前は俺が手を差し出してたのになぁ。
その後は普通に屋敷に帰った。
言われた通りレイジにこっ酷く怒られたけど、悪い気は不思議としなかった。
楽しかったけど、振り回しちゃったかなぁ。
でも、あんなに楽しそうなスバルは久しぶりだ。
スバルも楽しかったのなら、よかった。
こうして1日は、何事もなく過ぎていった。
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