リクエストの空間A

□ヤドリギ
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ーーーヨウ兄、ちゃん・・・ッ・・・


あぁ、昔はよく泣いてたっけ・・・
普段感情を出さなかったのに、俺の姿を見れば泣いてた。
母親の事もあったし、一族からも忌み嫌われている。
聞かされていなくても、それは嫌でも感じられた。
俺とは異母違いの弟。それでも家族なのは変わりない。
優しくて可愛い、末っ子のスバル。


ーーーヨウ兄ちゃん・・・僕、生まれてきちゃいけなかったのかな?


違うよ。そんな事ない。
俺の前でだけは、素直に話してくれる。
隠してた感情を全部ぶつけて、泣いた。
それからは、俺の前でだけ泣くようになっていた。
でも、それはもう何百年も昔の事。
屋敷から離れてイギリスに行っていた俺が帰ってきた時には、あの頃のスバルはもういなかった。
感情を拳に乗せて、物にあたるようになっていた。
いつからそんな事するようになっちゃったんだろう。
俺が知ってるあの頃のスバルは、もう一度も見れなかった。

「おい、ヨウ。起きろ。」

『ん、っ・・・ス、バル?』

懐かしい夢の狭間で、聞き慣れた声が聞こえた。
目を開ければ、スバルが俺の顔を覗き込んでいた。
あぁ、そういえば授業が退屈すぎて寝ちゃったんだ。
シュウは・・・って、いつも通りいないか・・・
クラスが同じで席が隣同士。横を見ればそこには誰も座っていない。
いつも通り音楽室か保健室で寝てるのかなぁ。
にしても、なんで3年の教室にスバルがいるんだろう。

『・・・スバル、迎えに来てくれたの?』

「・・・もうリムジン行っちまった。歩きで帰るからな。」

スバルはそっぽ向いて教室の入り口へと歩き出す。
教室を見渡せば俺しか残っていない。
心配して来てくれたのかなぁ。
中々自分の気持ち素直に言わない子だけど、その優しさは伝わってくるよ。

「おいヨウ、行くぞ。」

『ぁ、うん!』

入り口からスバルが俺を呼ぶ。
俺は急いで鞄を持ってスバルに駆け寄る。
迎えに来てくれたお礼を言えば、驚いた表情をしてそっぽを向く。
でも丸見えなんだよなぁ。耳まで赤いよ?
ほんと、こういう感情隠しちゃう所は変わってない。

『スバル、今日はちょっと遠回りして帰ろうか。』

「あぁ?別に、いいけどよ。どこ行くんだよ。」

『んー?ふふっ、内緒!』

学校を出ていつも帰る道を歩く。
この時間でも繁華街の賑わいは消えない。
クリスマスの時期が近いのか、街は赤や緑、白の灯りや飾りで満たされている。
メインとなる通りには所々の店の軒先にヤドリギが飾られていた。
これからもっと寒くなるだろうから、そろそろマフラーとか用意しないとなぁ。

「はぁ・・・ッ、さみぃ・・・」

横を見れば、スバルが手の平を擦り合わせていた。
いくらヴァンパイアって言っても寒さは感じる。
まだマフラーや手袋を用意してないし、俺と違ってスバルはセーターを着ていない。
確かにその薄着じゃ寒いよね。

『スバル、寒いでしょ?俺のブレザー羽織る?少しは暖かくなるよ?』

「はぁ?いらねぇよ!んな事したらヨウが寒いだろ。俺の事は気にすんな。」

ブレザーを脱ごうとしたら、手首を掴まれて阻止された。
まぁ、寒いのは変わりないけど俺はセーター着てるし・・・
でもスバルがそう言うんだから仕方ないか。
俺は脱ぎかけのブレザーを羽織り直した。
そして、そっぽを向いてるスバルの手を掴んだ。

「な、なっ!?」

いきなりの事で驚いたのか、スバルは真っ赤になって取り乱す。
だってやっぱ寒そうだし、大事な弟が風邪引くのは嫌だからね。
いくらヴァンパイアでも風邪引くんだよ?
人間界のウイルスじゃ引かないとは思うけど、念の為ね?

『手寒いなら、こうしてれば少しは暖かくなるんじゃないかな?って言っても、体温ないけどさ・・・スバルは俺と手を繋ぐの嫌だ?』

「ッ、別に、嫌じゃねぇけど・・・」

そう言ったスバルは舌打ちをして優しく握り返してきてくれた。
そのまま手を繋いで、賑わう繁華街を歩く。
街行く人は灯りや店の飾りに夢中で俺達が手を繋いでるのなんて気付かない。
そういえば昔、スバルと何度か手を繋いで歩いた事もあったなぁ。
あの時は確か・・・
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