リクエストの空間A

□"プレゼント"にはご用心
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コウの部屋で、俺はうんざりとしていた。
さっきから溜息しか出ねぇ。
その原因は、俺の目の前にある箱の山。

「ちょっとスバルくん!溜息ばっかりついてないで手ぇ動かしてよね!?」

「ふざけんじゃねぇ!なんで俺が、お前のファンから届いたプレゼントの片付けを手伝わなきゃいけねぇんだ!」

色とりどりのプレゼントの箱の山を指差し、イラつきを抑えることもせず怒鳴る。
ちっ。棺桶で気持ち良く寝てたらいきなり叩き起こしやがって・・・
親父の使い魔かと思ったら無神の使い魔で、しかもコウの使い魔だった。
無視して放っておくて更にめんどくさくなりそうだから仕方なく来た。
そしたらまさかファンから届いたプレゼントの仕分けと片付けを手伝ってほしいってねぇだろ。
まぁ、コウはアイドルをやってるから量も半端ねぇと思ってたが、予想以上に多いだろ、これ。
部屋のスペース、半分埋まってるんだぜ?

「仕方ないでしょ?まさか俺もこんなに届くとは思わなかったんだから。」

「お前の兄弟に頼めってんだ。なんで俺が・・・」

ぶつぶつ言いながら、俺はプレゼントの箱を開ける。
お菓子だったりアクセサリーだったり、期限があるのとないのと分けていく。
他の三人に頼めばいいだろ。なんで俺が呼ばれなきゃなんねぇんだ。
ぼそっと口に出せば、コウは不機嫌そうに口を尖らせた。

「だってルキくん達は、カールハインツ様に呼び出されて魔界に行ってるんだもん。
後頼めるとしたら、俺の友達のスバルくんしかいなかったから・・・えへへ、ごめーんね?」

「親父かよ、うぜぇ。んな言い方しても可愛くねぇぞ。」

だからこんなに屋敷の中が静かだったのか・・・
あいつらがいないんじゃ、この量は確かに一人じゃ大変だな。
コウとは色々あったが、今では何事もなく話せてる。
溝が埋まったって訳じゃねぇけど、お互い拳を合わせたから、色々吹っ切れたのかもしれない。
まぁ、こいつと友達ってのは気に入らねぇがな。
俺は昔から独りだったから、どうも"友達"って言葉は擽ったく感じる。
だけど気兼ねなく自分を曝け出せるのは居心地がいい。
コウには、親父が与えた瞳の力があるから、俺が言えない事にすぐに気づく。
気付いてほしくねぇ事にも気づかれるのが厄介だけどな。

「ん?ぁ、うわぁ!これ俺が欲しかったネックレスじゃん!へへ、こういうの送ってほしいよ。
飴とかクッキーとか要らないからさぁ・・・そう思わない?」

「まぁ確かに、この量はなぁ?」

俺が来た時より、大分プレゼントの量は減って床が見えるようになってきた。
反対側に作られた二つの山を見て、お前の事務所のルール変えろよと思ったのも事実だ。
アクセサリーや服系統の山の倍はあろう箱の山は、中身が全てお菓子。
その殆どが、飴やクッキー。日が経っても腐りにくい物。
まじでてめぇの事務所、食い物関係送るのやめさせろよ。
これ片付かねぇだろ。どう考えてもよ。

「どうどう、スバルくん!似合う?」

「・・・似合ってんじゃねぇの?お前アイドルなんだろ?ファンの奴もお前に似合う奴しか送らねぇだろ。」

コウはプレゼントされたネックレスを早速首にかけて見せてくる。
青い石が嵌め込まれた、羽根の形をしたネックレス。
瞳の色と合っていて、似合ってるな。
でも、俺には赤い石の方がコウらしさがあると思う。
ファンの女共は知らない、本当のコウの正体。
コウの熱く滾るような赤い瞳なんて、お前らはぜってぇ見れねぇからな。

「・・・つか、手紙とか送る奴いねぇのか?」

「あぁ。ファンレターは事務所保管なんだよ。だけどプレゼントは事務所に置けないから持ち帰りなんだ。」

「ふぅん。なるほどな。」

整理しながら手紙が一通もないのが不思議だったが、コウの言葉を聞いて納得した。
手紙色々と嵩張るから事務所保管なのか・・・
でもまぁ、このプレゼントの量も十分嵩張んだろ。
箱の処分とか、この量の食いもんの片付けどうすんだよ。
未だ整理ができていない山から箱を取り、綺麗に結ばれたリボンを解いて箱を開ける。
中に入ってる物を見て、俺は思わず固まった。

「ん?スバルくんどうしっ、うわぁ・・・」

「・・・おい、お前これ・・・」

いきなり動きが止まった俺に、コウは片付けていた手を止めて俺の手元を覗き込む。
誰が見ても嫌そうな顔をしたコウの顔は久しぶりに見たな。
そりゃ、こんなのがプレゼントの箱に入ってたらそうなるだろ。

「・・・うん。何も言わないでよねスバルくん。たまにいるんだよねぇ、こういうの送ってくるファン。うわ、しかも手紙付きじゃん。」

口を開こうとすれば、コウは頭を抱えながら深い呆れた溜息をついた。
箱の中に入っていた手紙を開けば、更にコウはうんざりする。

「"下界にまさかアイドルをしてるヴァンパイアがいるなんて思わなかったわ。これで私の事いじめて、あなたの硬いので私のナカを犯し・・・"
うわ、もう読みたくない。なにこれ、最悪なんだけど・・・はぁ、まじありえない。うっざ。」

コウは読んでいた手紙を最後まで読まず、ビリビリに破いてゴミ箱に捨てた。
まぁ、読まなくてもその続きは大体分かる。
俺も内容を聞いて寒気と悪寒が同時に来たからな。
しかもお前、ヴァンパイアって正体ばれてんじゃねぇか。
俺達以外にも、下界に降りてるヴァンパイアはいくらでもいるからな。
箱の中身に視線を戻し、よくやるぜと心の中で思う。
そこにはピンクの卵型の機械が入っていた。
これは誰がどう見ても、アレだよな。

「お前、大変なんだな。色々。」

「・・・はぁ、たまにあるんだよ。こういうビッチな女がさぁ。スバルくんのお兄さんにこれあげる?喜びそうじゃない?」

「あぁ。確かにあの変態なら喜びそうだな。」

お互いの頭に浮かんだのは恐らく同一人物だろう。
帽子を被って拷問好き。変な笑い方をする変態野郎。
問題のプレゼントの箱に蓋をして、別の場所に置いておく。
するとその時、無神の屋敷の呼び鈴が鳴った。

「あれ、何も頼んでないと思うんだけど・・・ネットで注文したアサリが届くのは明日だし・・・」

そうブツブツ言いながら手を止め、部屋を出て行った。
ネット注文とか、シュウみたいだな。
それルキに言ってあるのかよ。
レイジみたいにルキが呆れて頭抱えて起こる姿が目に浮かぶぜ。

「誰だよこんなの送ってきたの!ここの住所バラしてないんだけど!?」

「あぁ?うるせぇな。一体何が・・・」

部屋のドアを開けて入ってきたコウの腕の中に、赤と青の花で作られた花束が抱えられていた。
大きな花束をベットの上に置いて、肩を軽く回す。

「にしてもこの花、下界で見たことないんだけど・・・」

「俺もねぇな。なんだ?この花。新種か?」

楽器のラッパみたいな花の形。花弁は先端がくるっと丸まっている。
そして、雄しべと雌しべが異常に長く外に飛び出していた。
花の中に収まっていない。こんな花見たことねぇ。
それもこの甘い花独特の香り。ずっと嗅いでると、頭がぼーっとしてくる。

「へへ、この赤い色スバルくんの瞳と同じだね。」

「あぁ?俺じゃなくてコウだろ。この赤と青、お前の瞳の色と同じじゃねぇか。」

そう言って花束から視線をコウに走らせる。
コウの澄んだ青い両目と視線が合う。
海や青空みたいに綺麗な青い右眼が、ふっと赤い瞳に変わる。
あぁ。やっぱりコウの色だ。このオッドアイが、コウだって思う。
赤と青の静と動の色。いつまでも見ていたいと思うほどの、綺麗な瞳だ。

「・・・ふふっ、ありがとう。スバルくん。」

「ッ・・・!?ばっ、心読むんじゃねぇ!」

「えー?仕方ないじゃん。こういう力なんだからさぁ!」

コウは笑いながら、ベットに横になる。
俺の気持ちを読んで楽しいのか、ベットの上で笑い転げていた。
片付けの時からイラついていた怒りが限界に達した。
寝転がって笑っているコウに向かって拳を振り下ろす。
けど、一瞬で俺の手首を掴み、コウの胸板の上に引き寄せられた。

「うわっ!」

「へへっ、スバルくんの動きとか性格、もう俺全部分かるんだよ?」

「っ・・・この・・・」

引き寄せられた衝撃でベットが軋み、花弁がベットの上に舞い散る。
赤と青の花弁がシーツと床に散らばった。
鼻がおかしくなったんじゃないかってくらい、甘い香りが部屋に充満した。
なんだ、この香り。くらくらして、身体の内側から熱くなって熱を生む。
匂いが脳を支配してるんじゃないかってくらい、思考がぼーっとしてくる。
どくっと下半身に一気に熱が集まり、熱く疼く。

「コ、ウ・・・っ・・・」

「ははっ、これ、まずいなぁ・・・スバルくん・・・」

コウも俺と同じなのか苦笑いを浮かべている。
額から汗が流れ、肌の上を滑り落ちた。
視線がかち合った瞬間、お互いの顔が近づいて唇が触れる。

「ん、んっ・・・」

「んぅ、ん、はぁ・・・ん、待っ・・・コ、ゥ、んんっ・・・」

熱に浮かされるまま、男同士なのにキスを交わす。
俺の服の下に手を差し入れたコウの冷たい肌が背中を撫でる。
それだけで熱くなってる身体はゾクッと震え、快感が走った。
舌を絡められ、全身から抵抗の力が抜ける。
これ、やべぇだろ。ありえねぇ。

「は、ぁ・・・これさぁ、スバルくん?不可抗力だから・・・いいよね?」

舌を離せばその間に透明な糸が伝う。
糸が途切れ、コウの手が俺の濡れた唇を撫でる。
お互い、内側から生まれる熱に翻弄され始めた。
今屋敷の中には俺達しかいねぇ。
慰める相手がいるとしたら、目の前で頬を蒸気させているヴァンパイア。
その仕草に促されるように俺の口は肯定の言葉を吐く。

「っ、はぁ・・・俺も、やべぇ・・・なんだよ、これ・・・」

「ははっ、この花のせい、かな?」

ベットに散らばった、花弁の目を向ける。
この甘い匂い。それに高ぶり続ける熱。こんなのが下界に生息してるはずねぇ。
絶対に魔界の植物だ。匂いを嗅ぐ度に、思考が深い海に沈んでいく。
下半身に熱が集中してきて、苦しくなる。早く吐き出して楽になりたい。
それはコウも同じなのか、俺の下半身にさっきから熱く硬い物が当たる。
視線がまた合い、キスに溺れる。今度はさっきよりも深く。
こいつ、キスうめぇな。ぼーっと、意識が混濁していく気がする。
これは不可抗力だ。単なる慰めの行為。何もない。
何もないと、願うだけだ。
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