リクエストの空間A

□見透かされる
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賑やかな声が聞こえる。煌びやかな繁華街の中にある洋服店に俺はいる。
だけど胸の中はさっきからモヤモヤしていた。
その原因は分かっている。俺の目の前で女子達に囲まれて微笑んでるコウだ。
俺とコウの間には色々あったが、お互いに理解し合って溝を埋める事が出来た。
ぶつかり合ったりしたが、今では良好な関係だ。
まぁ、あいつが間に入ってくれたって言うのもあるけどな。
そのおかげで俺とコウは付き合っている。
普通の恋人みたいにデートしたりキスしたりはしてるが、そこから先に進んだ事はない。
いや、進んだ事ないって言うのは嘘になるが、二人でヌき合ったりはした。
今日は久しぶりのコウの休みの日だから、夜の繁華街に遊びにきている。
休みの日は"アイドルのコウ"ではなく"無神コウ"としている為、変装なんてしてない。
コウの周りに集まっている女子を見ながら溜息をついた。

「お店の迷惑になるから、今日の所はごめんね?」

嘘くさい笑顔を貼り付けて女子に接するコウ。
あの笑みが作られてるって分かる俺は、見ていて吐き気がする。
女はまだコウと喋りたいのか、握手やサインを求める。
コウが困っていると、一人の女がライブ上で必ずコウが言うセリフを言ってほしいとせがむ。

「仕方ないなぁ。これ言ったら解放してよ?"エム猫ちゃん達、俺に魅了されて吸い殺されないようにね?"」

そうコウが言えば、女達は黄色い悲鳴を上げて手を振りながら解散して行く。
笑顔で手を振るコウだが、いなくなればいつもの俺の知ってるコウの顔つきになる。
溜息をつきながら俺の方に向き直り、悪戯の笑みを浮かべる。
この顔だ。俺が知ってるコウの顔だ。

「香水付けすぎ、化粧濃すぎ、ウザイんだけどああいうアイドルの俺しか見てない女。」

「笑顔で接してたじゃねぇか。まぁ、その笑顔なんて嘘の笑顔だろうけどな?」

頭の後ろで腕を組んでるコウに近寄れば、笑顔を俺に向ける。
女達に向ける笑顔とは違う、本当の笑顔。
俺にしか見せない笑顔である事は確かだ。

「ねぇねぇ、スバルくんは俺に嫉妬してくれた?女の子に囲まれてキャーキャー言われてる俺見てどう思ったのー?」

「はぁ?なんも思わねぇよ、バーカ。アイドルらしくキャーキャーされてろ。」

コウにそう言ったが、内心は不安と嫉妬で一杯だった。
ヴァンパイアであるから人間の女と恋に落ちるなんて事はゼロに近い。
大抵、正体をバラせば女の方が怖がって逃げるか、逃げはしなくても覚醒に耐えきれず命尽きるかのどっちかだ。
俺とコウは同族だからその心配はねぇが、コウの目に俺が映らない時が一番怖い。
忘れられてるんじゃないか、愛されてないんじゃないかって気持ちが強くなる。
過去の事があるから、余計に怖さと不安が大きくなっていく。
愛されてるって思ってるのは俺だけで、実は愛してなくて俺を突き放すんじゃないかった・・・

「ちょっとスバルくーん?少しくらい嫉妬してくれてもいいんじゃない?俺は嫉妬してほしかったけどなー?」

「うっせぇ。お前の休みに付き合ってやってんだからいいだろ。」

「むー、つれないなぁ。俺の恋人はさぁ・・・」

コウを無視して、俺は店を出る。
不機嫌そうな声を出すコウの気配を後ろに感じながら、俺は暗い夜空を見上げた。
なんで二人で出かけることになったのかと、二日前の出来事に記憶を馳せる。










「な、なんだよ。いきなり校舎裏なんかに連れ出しやがって・・・」

かったるい学校の全ての授業科目が終わって帰ろうとした時、いきなり誰かに腕を引かれて校舎裏に連れ出される。
連れてこられる時は後ろ姿しか見えなかったけど、気配と匂いと服装からして分かった。
アイドル業が忙しくなり、あまり学校に顔を出さなくなった自分の恋人。
使い魔から連絡があり、そろそろ一ヶ月が経とうとした時の矢先だ。
校舎裏の壁に押し付けられ、視線を上げて見ればそこには一ヶ月前と変わらないコウがいた。

「スバルくん。」

「なんだよっ・・・ん、んぅ・・・」

反論しようとしたが、いきなりキスをされて思考が溶けていく。
離そうとコウの肩を掴むが、手首を纏めて持たれ頭上で拘束される。
それでも抵抗をやめずにいると、コウ唇が微かに離れる。
離れても唇が付きそうな距離だ。顔がちけぇ。

「は、ぁ・・・おい、コウ!お前、いきなり何す、んんっ、んぅ・・・っ!」

「黙っててよ・・・は、んっ・・・んー・・・」

また塞がれる唇。俺の怒声はコウの口中に吸い込まれた。
口内に入り込む冷たい舌が、逃げる俺の舌をあっという間に捕まえ絡め取る。
何度もコウとはキスをしてる。歯列と牙をなぞられねっとりと絡めてくるコウのキスに弱い。
すぐに膝がガクガクと震える。コウの服を掴んで訴えると、それに気づいたのか空いている手で腰を引き寄せ支えられる。
穏やかな夜風が吹く中、舌を絡める水音が響く。
暫くして口を離されると、透明な糸が間を伝う。

「は、ぁ・・・はぁ・・・」

「んー、久しぶりだからヤバイ感じ?トロンとして、脚もう限界じゃん。」

「うっせぇ・・・なんなんだよ、コウ・・・っ・・・」

離された時には、既に限界だった。
コウに支えられてなければ、今頃座り込んでいたかもしれない。
それくらいまでに久しぶりのキスだった。
やっとコウと、会話らしい会話が出来た。
顔を上げて見ると、その目は青と赤のオッドアイに変わっていた。
俺がコウキスだけで限界だって、見透かされる。

「俺の事は別にいいよ。ただ、久しぶりにスバルくんに会ったのに何その態度。俺はずっとスバルくんに会いたかったのに・・・」

「っ・・・知るかよ。アイドルやってんのはお前だろ?女どもにキャーキャー言われて嬉しかったんじゃねぇの?」

俺の性格からか、思ってる事と逆の事を言ってしまう。
本当はコウに寂しかったし会いたかった。
触れたいし、話したかった。
だけどそれが素直に言えない性格に嫌気がさす。
下を向いてどうしていいか戸惑っていれば、顎を掬い取られオッドアイの瞳と視線が合う。
コウの瞳は澄んでいて、俺の全てを暴こうとする程綺麗だった。
この瞳に見つめられると、動けねぇ。

「・・・大丈夫。俺には全部分かるから。スバルくんが俺と同じ気持ちで良かった。
俺だけ会いたがったり触りたいって思ってるのかと思っちゃったじゃん。」

「ぁ・・・」

悲しそうな表情をしていたコウだったけど、嬉しそうに微笑む。
俺の感情を読まれた。そういや、こいつの瞳はそういう力を持ってたな。
感情を読まれた事が恥ずかしくて俯いていると、ぎゅっとコウに抱きしめられた。

「会いたかった、スバルくん。」

「っ・・・お、う。おかえり、コウ。お疲れ様。」

「うん。ただいま、スバルくん。」

コウに隠そうとしても、必ず暴かれる。
感情を隠し通そうとしても、見透かされる。
抱きしめられているコウの背中におずおずと腕を回して抱きつく。
そんな俺の行動にビックリしたのか、コウが息を飲んだ。
だけど嬉しかったのか、耳元で吐息混じりに俺の名前を呼ぶ。
その息が耳元に当たって擽ってぇ。
そういや、なんでコウは俺を連れてここに来たんだ?

「あぁ、そうそう。なんで俺がここに来たって言うと・・・」

また、感情を読まれた。
だけど顔を上げたコウの瞳は元の青い瞳に戻っている。
そして、嬉しそうな表情で言うんだ。

「明後日久しぶりに休みなんだよ。だから、一緒に出かけない?」

「は、はぁ?なんで俺がお前と・・・!」

「デートしよって、言ってるんだけどなぁ・・・」

そう言われて、心臓が熱く脈打った気がした。
コウと会うのも久しぶりだし、滅多に二人でなんて出かけられる訳がない。
だけど俺の性格上、素直に言える訳がねぇ。
でもコウは、そんな俺の性格も気持ちも知ってる。
わざと言い直して、見つめられる。

「っ・・・分かっ、た・・・」

「へへっ、よかった!じゃあ、明後日の夜に俺の屋敷の前に来てね!じゃあね、スバルくーん!」

自然と、返事を返していた。
俺の返事を聞いたコウは笑顔になり、俺の頬に軽く触れるだけのキスをした。
笑顔で手を降ってその場から消えたコウ。
残された俺は真っ赤になった顔を隠し、人目を避けるようにしながら屋敷へと帰った。
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