往復書簡短編

□本編番外 無言メール
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本編51の直前
フミコ=陽介が夢主につけた仮名

*

TO:陽介
(本文なし)

FROM:陽介
無言メールってなんだよ、新しいな

TO:陽介
悪い。
本文書きあぐねてるうちに、間違って送信した。

FROM:陽介
フミコちゃんのことだろ?
今日始業式だったんだよな?
会えた?

TO:陽介
会えた。

<着信中>陽介

「俺だ」
「だから『俺だ』じゃねーだろって! もしもし? とか、月森です、とかだろフツー」
「なんだ急に電話なんて」
「まだるっこしいんだよメールじゃ! んで、フミコちゃんに会えてどうだったんだよ、かわいかった?」
「……かわいかった」
「ほう?」
「普通、記憶っていうのは美化されるものだよな」
「そうだな」
「……」
「記憶よりかわいかった?」
「かわいかった。びっくりするくらい」
「ほうほう」
「なんか、小さかったし」
「そりゃな。おまえより背の高い女子とか、ちょっと想像できねーわ」
「それにしたって、もう少し身長あった気がしたんだけど……」
「そりゃあれだろ。おまえの中でフミコちゃんの存在がそれだけ大きかったってことじゃねーの」
「!」
「黙るな黙るな」
「いや、なるほどと思って……。そうか……。すごいな、陽介は」
「だろ? 俺の身長も高く見積もってくれていいかんな。2メートルくらい」
「俺より背が高い陽介はちょっと想像できない」
「ああそうかよ!」

「これからどうしたらいんだ、俺は……」
「はー? 月森センセイすっかり弱気になっちゃって……。あの豪傑なおまえはどこに行ったんだよ」
「事件の捜査とは全然違うだろ。色恋沙汰なんて経験ない」
「おまえ……それうちの女子らの前で言うなよ。泣くぞ、あいつら」
「なんの話だ」
「いや、わかんねーならいいけど……」

「顔見た瞬間抱きしめたくなったり……」
「ん?」
「笑顔がキラキラして見えたり、話し声をずっと聞いてたいって思うのは、恋だよな?」
「ああー、うん。かなりな。てかおい、間違ってもいきなりハグとかすんなよ? おまえが社会的に死ぬのは勝手だけど、フミコちゃん巻き添えにすんな」
「やっと会えたのに、学校に着いたら彼女には彼女の友達がいて、俺の周りにも人だかりができて、なんか遠く感じて寂しい……っていうのも恋だよな?」
「なあ聞いてる? 俺の話。てかそれ確かめる必要ある? もう確信してんだろそれ」
「……稲羽にいるときから自覚はあった。けど、こんなに好きだとは、自分でも思ってなかった」

「告れよ。もうそれしかねーだろ」
「断られたら終わるやつじゃないか、それ」
「おまえが断られるわけねーから。安心していけよ」
「そんな保証どこにもない」
「おま、俺が言ってんだぞ?」
「陽介と宮本さんは違う。それに……あっ」
「へー、『宮本さん』って言うんだな」
「忘れろ」
「嫌だね。下の名前は?」
「教えない」
「なんでだよ!」
「陽介に取られたくない」
「取らねーよ! は? ちょ、なに、なんなの? おまえの中の俺ってそんなサイテー野郎なの?」
「そんなわけないだろ」
「じゃあなんで」
「陽介はいい男で、宮本さんはかわいい。そんなふたりが出会ったら――どうなる?」
「トーンがマジすぎて怖いんですけど」

「だから、万が一がないように接点は少なくしておきたい」
「褒められてるはずなのに、素直に喜べねーなー。まあいいや、とにかく宮本サンね。おまえが夢中になるくらいだから、マジでかわいくて、いい子なんだろうなあ」
「うん……」
「あのさ、嫌いな奴と一年も文通なんかしないぜ? イマドキなんでメールじゃねーの、とかさ。すれ違うタイミングいくらでもあっただろうに、ふたりしてまめまめしく手紙書いて送り合って……。相性がいいのは間違いないし、いい子なんだったら上手くいかなかったとしても邪険にされたりとかはないだろ。たぶん」
「うん」
「ぐずぐずしてたら、それこそ取られんぞ。他の誰かに」
「うん……」

「よしっ、んじゃ始めっか!」
「なにを?」
「『月森孝介、愛の告白大作戦』! その作戦会議だよ。他でもねえ相棒の大一番だかんな。ひと肌でもふた肌でも脱ぐぜ、俺」
「遠慮する」
「いや、マジに脱ぐ話してねーからな」
「それはわかってる」
「じゃあなんだよ。照れてんの? 水くせえなあ。遠慮すんなって」
「そうじゃなくて」
「?」
「陽介の『作戦』は成功しない」
「う」
「どころか、たいてい酷い結果に……」
「ぐ……。は、反論できねえ。わ、わかったわかった、サポートに徹します!」
「ああ、その方がありがたい。自分のことだから、自分で頑張るよ、できる限り」
「まあそだな、それがいい。で、行き詰まったら連絡してこいよ。無言メールでもなんでも、受け止めてやっから」
「ありがとう。陽介は最高の相棒だ」
「だろ? やっぱさ、ほら、俺の身長も……」
「それはない」
「ああそうかよ!!」


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