往復書簡短編

□本編番外 クリスマスの電話
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本編4849の間

*

「はい、堂島です」
「あ…っと、こ、こんばんは、宮本です」
「宮本?」
「ええと、月森…孝介さんの…」
「ああ、手紙の! ちょっと、お待ち下さい」

(孝介! おまえに電話だ、宮本さん)
(えっ)
(美織さん? 菜々子もお話ししたい!)
(あとにしなさい。ほら孝介、皿洗いは俺が代わる)
(ありがとうございます)

「もしもし?」
「もしもし、月森くん?」
「うん。ごめん、驚いた?」
「おっどろいたのなんのー! 今のって叔父さん?」
「そう」
「ええー、すごい、かっこいいね、声…」
「伝えとく」
「えっ、やだ、やめて! 恥ずかしい! っていうか、かわいい声も聞こえたけど、もしかして…」
「うん。菜々子。ふたりとも今日仮退院してきたんだ」
「今日!? わー、すごい、おめでとう!!」
「ありがとう」
「ねえ、伝えるならこっちにして! おめでとうございますって」
「わかった。でも菜々子はこのあと代わるつもりみたいだから、直接本人にどうぞ」
「わ、ほんと? なんか緊張する〜。って、それはいったん置いておいて…」
「置いておいて?」
「メリークリスマス、月森くん」
「あ」
「楽しいクリスマスになったみたいで、よかった」
「うん。宮本さんも、メリークリスマス」
「ん、ありがと。あ、カードもね」

(しばしの間。お互いかみしめるように)

「…それで電話を?」
「うん。あと、おつかれさまと、おめでとうも言いたくて」
「ああ…、うん、ありがとう。待っていてくれて」
「ううん、全然。月森くん、まだひとりでいるのかなって思ってたから、いろいろお話も聞けるかなーって思ったんだけど、それはちょっと、無理っぽいね」
「そうだね。それはまた、手紙で」
「わかった、待ってる」

「宮本さんは、変わりない?」
「うん、全然。あ…」
「あ?」
「へっくしょん! ご、ごめっ…、くしゅん!」
「宮本さん、もしかして外?」
「ん、実はそうなの。今ね、バイト帰り」
「バイト? デスティニーの?」
「うん。ほら、今、繁忙期だから、また来ませんかって声がかかって」
「へえー、さすが」
「違う違う。万年人手不足だから片っ端から当たってるってだけ」
「もしかして、夏のあの彼も?」
「あー、来るみたい。でもまだ冬休みじゃないみたいで、今のところ会ってないんだ。人づてに聞いただけ」
「へえ」
「私は私で年内までだし、とにかくめちゃめちゃ忙しいから、会えても話すどころじゃなさそう」
「残念?」
「んー、どうだろう。あれっきりになるだろうって思ってたから、予想が外れたなーとは思う」
「面白いこと言うね」
「そう? あ、それよりも聞いて! 期末テストで、数学が過去最高点だったの!」
「えっ、すごい、おめでとう!」
「でしょ〜! 月森くんのおかげだよ」
「俺?」
「うん。進路のこと、来年一緒に考えようって言ってくれたから、私もちゃんとしなきゃって。選択肢を広げようと思ったら、文系科目は頭打ちだから、理系を底上げするしかないなって」
「おー」
「一念発起で一年の教科書からおさらいして、そしたらなんか、期末もよくなった」
「はは、やっぱり宮本さんはすごいなあ」
「えー、町を救ったヒーローには敵わないけどなあ」

(ふたりで笑う、鼻をすする美織)

「宮本さんの、そういう話、もっと聞きたいけど、風邪でも引いたらいけないから…」
「そうだねー。家からかけたら『壁に耳あり障子に目あり』だから…と思ったんだけど、さすがに冷えてきちゃった」
「早く帰って温まった方がいい…あ、菜々子が代われって言ってる」

「もしもし!」
「もしもし〜、はじめまして、宮本美織です」
「堂島菜々子です!はじめまして」

(退院のお祝い、折り紙のお礼などひとしきりやりとり)

「じゃあまた、お兄ちゃんにかわりまーす」

「もしもし」
「はいはーい、はっ、くしゅん!」
「ああ、ほら、それじゃ本当に風邪を引くよ」
「だねー。大人しく帰ります。ふふ」
「なに?」
「『お兄ちゃん』って、かわいいなって思って」 
「ああ、うん、かわいいよ、すごく」
「ほんとによかったね、家族揃ってクリスマスができて」
「うん。実は、電話のちょっと前まで仲間もみんな来てたんだ」
「そうなの? すごい、楽しそう」
「楽しかったよ。これまでのクリスマスで一番」
「そっかー」
「宮本さんから電話ももらえたし」
「あ、やった、カウントしてもらえた!」
「するに決まってる」
「あはは、嬉しい。じゃあ、名残惜しいけどこの辺で…」
「うん。帰り道、気をつけて。またすぐ手紙を送るよ」
「わーい。でも一応いま言っておくね」
「え、なにを?」
「よいお年を!」
「ああ…そうか、よいお年を!」
「おやすみ〜。菜々子ちゃんと叔父さんによろしく」
「了解。おやすみ、宮本さん」


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