小説

□儚くて、
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静雄side


「し…ゃ、…め…」


臨也はうっすらと涙を流して何かを必死に呟いていた。

「わす…た、ない…し…ちゃ……ごめ……」

『忘れたくない』と言ったんだろうか?後はよく分からない。
何か夢を見ているのかもしれないな。
どちらにせよ…すごく魘されている。

「おーい…大丈夫か……?」

…なんて言っても返事がないのはわかりきっているが…
でもとても辛そうだ。
息だって荒くなってるし…
ど、どうすればいいんだろう。
…あぁ、新羅に医学のこととか教わっとけば良かった…!!

「シズ…ゃん……」
「!!」

俺は条件反射でベッドの方に向き直った。
……今のは、聞き取れた。
確かにハッキリと、『シズちゃん』って…。

有り得ない筈だ。
今の臨也は俺の事を『静雄さん』としか呼ばない。
というか多分、俺のシズちゃんっつう渾名を知らないだろう。
……その筈なのに。

「臨也…」

これは直感。
理屈も論理も関係ない。
ただ、今までずっと頼ってきた『カン』だけ。
何年もそのカンに頼って臨也の居場所を突き止めてきたんだ。
少しくらいは信じてもいいと思う。




多分こいつは…、今俺を思い出そうとしている。




「…臨也、頑張れ」

今の俺には、そんな情けない声をかけるぐらいの事しかできなかった。













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