小説

□痛々しくて、
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臨也side





――ここは一体どこなんだろう?

真っ白。
ひたすら白く、天井も壁も床も分からない程のただ広い空間。

俺は…何かを探している気がする。
俺が大切にしていた『何か』。
毎日共に過ごしていた『何か』。
確かに愛し合っていた『何か』。

その『何か』の存在は余程大きいようで、俺の体にぽっかりと巨大な穴を開けた。
探さなきゃ…
…ちゃんと突き止めなきゃ…


ザァッ…
「っ……?」

急に強風に吹かれておもわず目を瞑り、手で顔を庇う。
――なんだろうこのかんじ。
風が収まってからゆっくり顔をあげた。

「…………えっ?」



そこは桜色の世界。
桜の花びらが幾枚も舞い散り、色鮮やかな風景を作り出している。

「ここ…どこだ?」

遠くを見ればそこには高校があった。
長い長い、そして真っ直ぐな道の先に堂々と佇む姿。
どこなんだろう、ここは。
見たことが無い風景…
その筈なのに、俺はこの場所に来たことがある気がする…。
ゆっくりと歩み寄り、校門に手を添えてみる。

「……温かい…」

見たこともないこの学校が何故かやけに懐かしく感じる。
どこなんだ……?
学校名が書いてあるであろう石で作られた看板を見れば、それは黒く汚れ、凹凸もないので読むことができない。
看板を指でなぞってみる。
…刹那。

切れていた糸が繋がったような、
見えなかったものが見えたような、
頭の片隅にあったものが明確に掴み取れたような、
そんな感覚を覚えた。
目を閉じ、瞼の裏に浮かぶ数少ない記憶を手繰り寄せる。

「俺は…ここに来て…毎日来て…会っていた。」

徐々に騒がしくなる周り。
さっきまでは自分一人しかいなかったが、今はたくさんの人が居るようだ。
だがそんな事など関係ない、という風に俺は探し続ける。
記憶を。
思い出を。
探している『何か』を。

「俺は……会うためにここに来ていた。『何か』…いや、『愛する誰か』に…?」

この時から俺の中には確信に近いものがあった。


――俺が探している誰かは、ここに居る


「臨也!!」

自分を呼ぶ声がした。
反射的に声の方を振り向けば、そこに居た人物は此方に背を向けて小さく手を振っていた。

「俺…じゃないのか…」

声を出した人物の奥に学ラン姿の人物が居た。
おそらくその人に向かって手を振っていたのだろう。
なんだか恥ずかしく思って伏し目になれば、何か違和感を感じた。
…もう一度顔をあげてみる。

「え……」

長身で金髪、細い手足、あの歩き方。
後ろ姿でも分かる。
絶対にそうだ。あれは……

「静雄、さん…?」

なぜここに…?
というかここはどこだ?
静雄さんは誰に手を振ったんだ?
淡い若竹色のブレザーを羽織る静雄さんの背中を見つめ、それからその奥に目を向ける。
何故か一人だけ黒にまみれた人物…。
あれは………

「…俺……?」

確かに『イザヤ』と呼ばれた筈の人。
黒に身を包んだ体。
何十年も見続けてきたあの顔。
だけど微かに違う気がする。
…………そうだ。
今の俺より若いんだ。
でもこんなに似ている人がそう居る訳がない。
だから確かに俺なんだろう。
しかし…

「過去の…俺?」

きっとこれは俺が落とした記憶の欠片。
俺にとって大切だった筈の思い出の一部。
俺が探している……俺だ。


「あっ、シズちゃん!!」
「よぉ」

俺の前に居る2人はやけに親しい口振りだった。
ていうか…

「しず…ちゃん?」

…なんだその女の子みたいな呼び方。
絶対馬鹿にしてるだろ、アレ。
なんで静雄さんは怒らないんだ?
静雄さんは優しいけど、時々キレやすいところあるし…
怒ったって変じゃない状況だと思う、んだけどなぁ…。

でもあれは……

―…だからシズちゃんもパルクール習った方がいいと思うんだよ。
―俺は別にいいっつうの。
―…俺はシズちゃんの身を案じて言ってんだよ?
―………そう、かよ…//

怒りの感情なんか全く無く、
そこに存在する空気はとても温かいものだった。

「……?」

何だろう?
感じたことがある。
今みたいに、静雄さんの放つあの空気を。
俺の目に映る二人が共に抱く感情を。
当たり前だ。
だって、それは

…かつて俺が体感したものなのだから。

「静雄さん…」

自分でもはっきり聞き取れない程小さな声で呟く。
優しく微笑む貴方の名前。
平和で静かな生活を求める貴方の名前。

「シズ、ちゃん…」

…過去の俺が弾んだ声で呼んでいたその名前。


―ズキンッ―

「…!!?」

頭が痛い。
刺されたような痛みが頭部に響き渡る。
なんだ……?
何なんだよ……?
せっかく…

「せっかく『俺』に近づけたと思ったのに!!」

俺と静雄さんの思い出を忘れたくないんだよ…!!
嫌だ…………
……嫌だ!!!!!



「し…ゃ、…め…」











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