小説

□その輝きは、
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静雄side



厚い雲が空全体を覆っている。
外に出る気が失せるそんな天候にも関わらず、窓から見える池袋は今日も変わらずに活気で溢れかえっていた。
日曜日という貴重な週末なのだからそれも当たり前か、と納得しながら着慣れたベストを羽織って、我が家の玄関を押し開けた。

暗く、重たい雰囲気の景色。
そして俺は、そんな中病院に向かう。
気怠い空気を打ち破って足を急かせば多分30分とかからない。

俺が怪我をして通院してる訳ではない。
する訳がない。
病院へと向かっているのは、ある人のお見舞いだ。

ある人、
――俺の恋人である臨也の…





トントン

ドアをノックすれば、中から「入ってまーす」という返事が聞こえてきた。
トイレじゃねぇんだから、なんて内心ツッコミをいれつつもそれを了承と受け取り、ドアノブに手をかける。

「入るぞ」

ガラッ

「あ、静雄さん!」

病院の廊下の端にある一室に入ると、読書をしていた青年が顔をあげた。
読書中は眼鏡をかけているようだが、俺が室内に入った瞬間眼鏡を外し、穏やかに笑った。


ここが臨也の病室だ。
もう毎日のように通っているので、看護師さんに聞いたり、院内で迷ったりすることもなく簡単にたどり着いた。

「…よぅ、元気か?」
「はい、おかげさまで!」
「嘘つけ。…って、包帯で頭グルグルにした奴にきく言葉じゃねぇよな」
「ははっ。でも本当に大丈夫なんですよ?痛くないし。これも毎日静雄さんが来てくれるおかげです」

優しく目を細めて笑う青年は、確かに臨也だ。
未だに臨也のこんな表情には慣れないが、確かに臨也だ。
こんな信じられない人格になってしまったのは、1週間程前に遡る。


先週の日曜日、俺たちは池袋の人通りが多いところで所謂、その…デートをしていた。
臨也が見せびらかしたいだの何だのと言って、わざと人前で手を繋いだりして散々恥をかかされたっけなぁ…
…まぁ、そんな話はどうでもいいか。
とりあえずそんな時だった。

――よく考えれば当たり前だった。

人をこよなく愛し、無差別に人を利用する新宿の情報屋。
喧嘩人形なんて呼ばれちまうほどの怪力で公共物を壊しまくる俺。
ある意味有名になってしまった俺達。
ある程度敵にまわした奴らも居る(臨也は特にな)。

そんな奴が堂々と道を歩いていて、狙われない訳がないだろう。



――そう…こんなに目立ってしまって、平和に過ごせるわけがなかったんだ。



ダンプカーがこちらに向かって来ていた。
明らかに止まることのできないようなスピードで来ていた。

『危ないっ!!』

『…っ!?』

咄嗟に反応出来なかった俺をかばって、臨也は車にひかれた。
勿論怪我なんてもんじゃ済まなかった。
幸い、死には至らなかったものの頭から大量に出血して、すぐに救急車に連れて行かれた。
臨也をひいた車はすぐに逃げて行き、警察による捜査により、意図的にひいたものであると告げられた。
そうして俺の考えはたどり着いた。

――あの車は自分を殺そうとして向かってきたものだ、と。

俺のせいで、あいつはひかれてしまった。
俺のせいで、あいつは記憶を失った。
俺のせいで、あいつはあいつでなくなってしまったんだ。

俺が車に轢かれて死ぬ訳ねぇだろうが…この馬鹿…っ


「なんで俺なんかの為に……」
「静雄さん、どうかしたんですか?」
「…………いや、何でもない」

心配そうに顔を覗き込んでくる臨也に、できるだけ優しく微笑みかけた。

「あ、花持ってきたんだ」
「わぁ!綺麗…ありがとうございます、静雄さん!」

花を臨也の顔の前辺りに出せば嬉々とした表情を見せた。
なんだか、見ているだけでこちらも笑顔になってくる。

「おぉ。じゃあ、花代えてくるわ」
「はい」


ニコニコと、前の臨也では有り得ないような表情。
優しくて、無邪気で、本当に前までの臨也の面影は全くない。
だが、今の臨也も臨也であることに変わりない。
今までの臨也も、今の臨也も、両方とも俺が愛した『臨也』なんだ。

そんな事を考えながら、花束と花瓶を持ち病室を後にした。





あまり使われない、廊下の端の水道はひどくこざっぱりしていて、殺風景だった。
窓からも陽が差し込んでこないので、じめじめとした印象を受ける。
蛇口を捻ると強い流水の音が響き、頭の中がかき消される。
そんな思考の中でひとつの疑念が浮かんだ。

―臨也は俺を覚えていない方が幸せなんじゃないか…?―

俺のせいで喧嘩して、戦って、殺し合って、両想いでもなかなか進展しなくて、付き合っても何も変わらなくて、
近くに居ても離れているような…そんな距離感だった。

「愛する」ってのはどうするべき事なのか分からなかった。
きっとそれは…二人ともそうだったんだと思う。

後悔してた。
もっと、ずっと前に気づいて素直になってればきっと打ち解けてたんだろう。
でも今更…………………そんな事できなかった。
臨也の中の俺は素直じゃなくて、バカで、単細胞で、暴力的な化け物。
そんな奴が急に変わってもきっと気持ち悪がられる。
なんだかそんな気がして、それが恐くて、俺はずっと「好き」なんて言葉を口にできなかった。

――今からやり直すべきなんじゃないか…?――

昔の俺の事なんか忘れた今の臨也に恋して、今度こそ素直になれば……
そんなことが頭に浮かんだ。
喧嘩したあの日々、いつも隣にいた時間、恥ずかしがりながらも手を繋いだ瞬間。

すべて失って、作り直せばいいんじゃないか……?

「…………………」

気が付けばもうとっくに花瓶から水が溢れていた。
元々店でカットした花束を花瓶に活ける。

「ふぅ…、よし」

鮮やかな花は、洒落た花瓶に映えて余計に輝いて見える。
窓から見える景色は、いつの間にか微かに太陽が顔をだしていた。
目の前に見える輝きと、今までの臨也との思い出を重ね合わせる。

「…重なりきらねぇ、な……」

自嘲的な笑みを浮かべてみる。
自然と口は開いていた。
頭はもう働いていない。
真っ白だ。
それは日の光が眩かったからか、精神的なものなのか…そんなことを考える必要などない。
もう分かってるんだよ、そんなこと。
頭の中の空白にはひとつのことしか浮かばなかった。


『あの輝きは何にも代えられない』


廊下に響く自分の足音がひどく脳内に染み付いた気がした。





再び病室に向かうと扉があいていた。
俺が出た後に臨也が開けたか、看護師さんが入ってきたんだろうか。
開いた扉に誘われて入ると、さっきまで無邪気に笑っていた青年はベッドの中で目を瞑っていた。
一瞬、まさかと考えてしまったが、近づくと寝息が聞こえたので、ほっと息を吐く。
それから花瓶を置いて、ベッド横の椅子に腰掛けた。
臨也はすやすやと眠っていて、それはもう、すごく幸せそうに。

「し…ゃ、…め…」

だがその幸せそうな表情は少しずつ変化していった。

「いざ、や…?」




その白い頬には涙が流れていた。



→ 
↓ あとがき




はい、お察しの通り続きますとも。
すいません!ほんっとすいません!
「記憶喪失ネタっていいよなー。萌えるよなー。」なんて軽い気持ちで書き始めたらなんかノってきちゃって、長々と…;;;;
今続きをかいております。
ほんと許してください…orz

まぁ、私が書くととにかくシリアスになることが分かった。←
そろそろ久しぶりのR15が書きたい。←ぇ




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