07/31の日記

00:06
傷みに涙しながら君の幸福を…
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マフィアはその職柄からか、宗教や仏教を重んじる所が多い。
皆、教主や神主の言葉に耳を傾け神の加護を願う。
神などを信じていなくとも願わずにはいられないのだ。

相手のために……
否、自分のために……






《傷みに涙しながら君の幸福を…》








薄暗い森の中。
まるで出口の見えない闇の中に閉じ込められたみたいだ。と獄寺は思った。
ここまで暗ければ視覚は殆ど役に立たない。冴え渡るのは聴覚と嗅覚。そのせいかまだ自分が血の臭いを纏っていて気持ちが悪かった。


刺すような冬の空気に漏れる吐息は白く凍る。時刻は明け方5時を示していた。
ふと空を見上げれば、灰色の空からハラハラと白い花びらが舞い降りてきていてポツリ呟く。


「雪…か…」


どうりでさみぃわけだぜ。
そんな獄寺の独り言は誰に聞かれるでもなく空を舞った。

舞い散る如く降る雪の花が獄寺の頬を撫でる。
ハラハラと舞い降りてくる雪の花に過去の記憶が脳裏を掠め目を細めた。


あの時、山本を突き放したのは獄寺自身だ。
別に後悔をしているわけじゃない。
遅かれ早かれ山本は自分と別れていたと思う。

山本にはこんな血生臭い場所なんて似合わない。
そして、今の血に濡れてしまった両手で山本に触れてしまったら、山本が汚れてしまう気がしたのだ。


少しでも傍に居たいと思ったのは自分。
突き放したのは自分。


理不尽で身勝手な男と思ってくれていてもいい。
それでも、今の自分を山本に見られたくはなかった。

赤に染まってしまった自分。
流しても流しても消えぬ赤。
もう、目にこびりついて離れない…





耳が拾った音にハッと我にかえった。
どのくらいの時間空を見ていたのだろう。もう手なんかかじんでしまって感覚がない。
もう一度耳を澄ませてみれば、先程拾った音と同じものが耳に入った。

美しい歌声。
それは、賛美歌だった。

罪に溺れた人は傷みに涙し、愛しい人の幸福を願った歌。
今の自分にはピッタリだと思った。

獄寺は無意識に踵を返し、音のする方へ進んだ。
しばらくするとポツンと佇む小さな教会が目に飛び込んだ。すでに歌は終盤を迎えていた。

なんの音も聴こえない教会はただそこに存在するだけ。


獄寺は重い教会と扉に手をかけた。


誰もいなくなった静かな教会に、ステンドグラスにはシンシンとふる雪の影が映し出されていた。

教会の中まで風が入って来ない分暖かいが、それでも中は息が白く凍るくらい寒く、獄寺は手をすり合わせた。



獄寺は聖母マリア像のある方へと、赤い絨毯を踏み真っ直ぐと歩く。

神に祈るなんて柄じゃない。柄じゃないけれど…



「今日くらい祈ったっていいじゃねぇか…」


だって、クリスマスだぜ?
泣きそうな笑みを浮かべながら獄寺は聖母を見上げた。








(願わくば、君の幸福を…)


END


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未送信ボックスから見つけた小説。
いつ書いたんだろうか…;
クリスマスってことは半年くらい前か!?

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