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「あ…だめ……助け…綾さ、んっ!!」
「…和泉?」

店の方から泣きそうな顔で出て来た和泉は、綾に助けを求めた。


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「ど、どうしたんですか?」
「………。」
驚いた綾が聞いても、和泉は俯いたまま答えない。

「和泉?」
綾がしゃがんで和泉と同じ目線になり、和泉の顔を覗き込むと、ようやく観念したように顔を背けて答えた。

「…………お、おしっこ……したい…です。」
「え?」

確かによく見れば腰も引けてて、手はしっかりと股間を押さえつけている。

「…我慢してたんですか?早く行かないと間に合わなくなってしまいます、よ?」
「い、いやだ!おもらし、したく、ない…です……」
でも、言葉とは裏腹にしゃがみ込んでしまった和泉は、立つことすら難しそうだった。

今日は、父は用事で留守にしていたため和泉は一人で店番を任されたが、なかなか客足が途切れなかったため席を外せず、ずっと我慢していたらしい。
綾が店の方に目をやる。
「…今、お店は?」
「……旦那様がお戻りに……っ!」

あまりにも辛そうな様子の和泉を見かねた綾はなるべく優しい口調で話しかける。
「もう、ここでしちゃって良いですよ。」
「…え?」

「大丈夫ですから」

そう言われても、和泉は首をブンブン横に振る。
「…や、イヤ、です…。ヤダぁ…っ。おも…らし……したくないぃぃ…っ」
和泉の目に、自然と涙が溜まる。

半分パニック状態の和泉を落ち着かせようと、綾は出来るだけ優しい声で話しかける。
「大丈夫。汚してしまったら拭けばいいし、濡らしてしまったら乾かせばいいだけ、それだけですよ。それに…そのままじゃ辛いでしょう…?」
そう言って綾が背中をさすると、和泉は、まるでそれが合図かの様に緊張の糸が切れるのを感じた。
「……ごめ…なさ……」
言うが早いか、和泉の足元から水音が聞こえ、床の水溜まりがみるみる広がっていった。


「よく我慢しましたね。偉い偉い。」
おもらしが終わって呆然としている和泉の頭を撫でながら、綾は優しく和泉に声をかける。
「大丈夫」
そして素早く和泉の濡れた足を拭いてあげる。

「…ごめ…なさい……ごっ…ごめんなさい…」

「違いますよ。」

「…え」

「こういうときは、ごめんなさい、じゃなくて、ありがとう、って言うんです。」
驚いた風に綾を見た和泉は、一瞬戸惑ってでもやはり口にする。

「……あ、ありがとう、ござい、ます……」

綾は、にっこり笑うと、それに答えた。

「どういたしまして」

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