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「何回すれば気ィ済むんや?!いい加減にしぃ!!」

今日も今日とて、隣の室はにぎやかな模様です。



*3




「……ご…ごめんなさい……ごめんなさい……」

「ほんまに分かっとんの?!」

「ごめんなさい……ごめん、なさ、い……ごめんなさい……」

「謝ればええ問題ちゃうんよ?!アンタ、さっきからごめんなさいしか言うてへんやん!」

「…っごめんなさ…い…。………で、でも、ここに来るまではほんとにしてなくって……、その……」

そこまで言いかけて、和泉の目に涙が溢れてくる。

――なんで?ここに来る前までは本当におねしょなんかしたこと無かったのに…。

奉公に来て、ひとつき。
何故かここに来てから毎日の様におねしょをしてしまっている。
仕事だって、まだ全然覚えられて無くて役に立たないのに、奉公先で毎朝毎朝おねしょをして叱られている。
和泉には、それがひどく情けなかった。

それに、こんなにも毎日毎日おねしょをしてしまえば、誰だってさすがに落ち込む。
綾さんは「大丈夫」って言ってくださるけれど、それだってこんなに毎日毎日繰り返してたら、いつ嫌われるか・呆れられるか分からない。怖い。

本当に、自分で自分が嫌だった。


けれど、そんな和泉の思いが伝わるはずもなく、降ってくる和泉への叱責は先程から止まる気配が一向に無い。

「そないな言い訳するんやないッ!!だいたいあんたいくつ…」

「シゲさん、そんなに怒らないでもいいじゃないですか。」

絶え間なく和泉を責め立てていた声が、突然入ってきた第三者によって、ようやく止まった。
その声に、一番驚いたシゲさんが問う。

「綾さま!!…ど、どうして?」

「シゲさんの声は私の部屋まで丸聞こえでしたから。」
「すんまへん…。」

「謝らないでくださいな。どうせ起きてましたから。」

そう言うと、綾は和泉と和泉の布団に目を移す。
和泉は、今日こそ怒られるのを覚悟して身を縮めたが、感じたのは衝撃ではなく優しい手の温もりだった。

「大丈夫ですよ、和泉。……少し、いつもより元気がありません…ね…。」

和泉は、一瞬綾を見上げたが、すぐにまた俯いてしまった。
それを見た綾は優しく微笑むと、シゲさんの方に向き直り、手短に告げる。

「シゲさん、後は私が何とかしますから。」

「せやけど…」

「私に任せてくださいな。それに、もうすぐ父様が起きてきてしまいますよ。」

シゲさんは、この家の女中として何年も仕えている。つまり、一番重要な仕事は父の身の回りの世話なのだ。
なので、綾にそう言われると逆らえない。シゲさんは、しぶしぶ室を後にすると朝食の用意をしに台所へと向かって行った。


二人きりになると、綾は和泉に向き直り出来るだけ優しい声音で話しかける。

「……こんな遠くまで一人で来て…寂しかったですよねぇ…。」
「…え……」

和泉は、驚いたように綾を見上げたが、すぐにまたもや俯いてしまった。
けれど、しばらく沈黙したのち、見過ごしてしまいそうな程ほんのわずかに頷いた。

綾は、和泉のその様子に小さく微笑むと言葉を続ける。
「親元を離れての奉公は心細いはずですよね…。まして、初めての土地なのですから。」
「……。」

「和泉。私は、いつでも貴方の味方ですよ…?」

何かあったらすぐに言ってくださいね、と続けた綾に和泉はおずおずと口を開いた。

「ど、どうして…ですか?どうして、僕なんか…」

上手く言葉にならない。でも、ずっと思っていた事だった。この機会にどうしても聞きたいと思った。
自分みたいに、奉公に来たのに役にも立たない田舎丸出しの汚いガキをどうしてかばってくれるのか。どうして、おねしょしても怒らないのか。ずっと思っていた。
でも、聞いたら嫌われそうな気がして、思い上がりかもしれないから、聞けなかった…。

しかし、そんな和泉の思いをよそに、綾はケロッと答えた。

「和泉が大切だからですよ。」

「…え?」

「和泉が大好きです、と言ったんです♪」

そう言って、綾はいたずらっ子の様な笑みを浮かべた。








お父様もシゲさんも悪い人ではないんです。ただ、和泉を思う余りついつい厳しくしちゃうんです。でも、ただでさえ心細い和泉にはそれが寂しい。
で、おねしょしちゃうんです。
それで叱られて、益々寂しくなっておねしょしちゃうんです。

和泉すら気付いてないとこで起こってた負のスパイラルに綾が気付いた時の話し。
分かりづらいですね…。

本当はもう少し長かったんですが、収集つかなくなってしまったので、思いきってラストをばっさりカット。

【追記】加筆したら、なんか暗くなっちゃいました…orz

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