main(serial)

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「うわぁあああん!!…うっ……ひっく…っう…うああああん!」

今日も、隣の部屋から目覚まし代わりの泣き声が聞こえてくる。
あぁ…朝ですねぇ…。



*1



「ったくお前ェは、どういうつもりなんだ!毎日毎日ィ!!」

「ごっ、ごめんなさい!もうしませんっ!」

「昨日もそう言ってただろーが!!もう忘れたか?!」

「ほ、本当にっ!!今度こそ!もっ…もうしません!もうしませんんん!!」

「そーれも昨日聞いたァっ!」

「ほ…本当です。明日は!明日こそは!絶対にもうしませんっ!もうしませんからぁあああ!!!」


完全に逃げ腰で泣きわめいている和泉の手首は、しっかりと父様に掴まれている模様。
我が家の朝の風物詩…かもしれません。

「それになァ、たとえ本当に明日はしなかったとしても、約束は約束だ。」

父様の容赦のない言葉に、和泉はなんとか逃げようと画策するけれど、しっかり捕まれた手はどんなに暴れても離れない。

「ごっ!ごめんなさい!ごめんなさい!許してくださいいいい!!」

「ダメだ。諦めて大人しく言われた通りにするんだな。じゃないともっとひどいのにするぞ!!」


遂にはしびれを切らして脅しモードに入った父様の言葉に、和泉が急におとなしくなる。

言われた通り、今朝方自分で描いた大きな世界地図の横に正座した和泉は涙を堪えながら必死に謝る。

「…っ…ごめんなさい……ほんとにごめんなさい…ごめん、なさい……」

「どんなにわめいても謝ってもダメなもんはダメだ。」

そう言って、父様が高く振り上げたのは長い竹定規。
一瞬で降り下ろされたそれは、俯いて泣いてる和泉の背中に思いっきりヒットする。
それを数回。

「っい゙?!あ゙〜ん゙!!ごめんなさい!ごべんなざい!!ごべんなざい゙ぃいい!!」

あっという間に悲鳴が泣き声に変わり、振り出しに逆戻りしてしまった。
やれやれ。

――そろそろ、助け船が必要…ですかね。

綾はこっそりため息をつくと起き上がり、布団を軽く直してから隣の部屋に向かう。

開け放された出入口のふすまからそっと自室の隣の部屋に入ると、白熱中の父に声を掛ける。

「父様、今日はそのくらいで勘弁してやってくれませんか…?」

「綾!いつから…」

突然現れた第三者に父が驚いて手を止める。

「今しがた、ですよ」

綾は、満面の笑みでまっすぐ父の方を向いて答えると、非難めいた口調で続ける。

「父様のお声があまりにも家中に響き渡っていたもので。」

「……そりゃ…悪かったな」

「私は構いませんけれど…」


その後に続く言葉は言わずに、綾は視線で父に対する非難の心を余すところなく伝える。

「……………。後始末ぐらいは自分でどーにかさせろ。」
「分かりました。」

その視線に居たたまれなくなった父が、そう言って部屋を出ていくのを見届けると、綾は和泉に視線を移した。
そして笑いながら、あらあら、と言うとわざとらしく付け足す。

「どうやら初日の夜の失敗も、緊張からではなく単なる『クセ』だったようですねぇ。」

「っ?!…ちがっ!!」

その言葉に、和泉はまだしゃくりあげながらも焦って必死に否定する。


ここに来た最初の日の晩、和泉はしてはならない失敗をしてしまった。
来る前は一度だって失敗したことは無かったのに、なぜか明け方目が覚めたら布団も寝間着もぐっしょり濡れていたのだ。
その時、途方に暮れていた和泉に手を差し伸べてくれたのが綾だった。
それ以来、からかったりもするけれど綾はいつだってこうして和泉を助けてくれる。



「………。…ごめ…んな…さい…」

「あら、怒ってる訳じゃないんですよ。少し、からかい過ぎてしまったかしら。」

ふふ、と笑った綾が和泉には眩しくて、ただでさえ小さい体をますます小さくした。

「もう大丈夫。今日のはいつもより少し、痛かったでしょう?」

「………。」

しゃがんで和泉と同じ目線になった綾に和泉が僅かに頷くと、綾は和泉の頭を優しく撫で、抱き締めてあげた。

「定規は人をぶつものではなく、物の長さを測るものですよねぇ?…大丈夫。きっとすぐに痛くなくなりますから。」

そう言いながら、綾は優しく和泉の背中を撫でてあげる。
和泉は、また泣きそうになるのを必死に堪えたけれど、やっぱりまた泣いてしまった。





⇒オマケ



"竹の定規"は、座禅の時お坊さんが持ってる竹刀(?)とかのイメージで、虐待とかではありません。
和泉に早くしっかりして欲しいと思う余りつい厳しくしちゃうんです(´・ω・`)
そして、お父さんは綾には勝てません(笑)
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