Ace of Diamond

□*其処にいるは愛し君*
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何故か俺は寮の通路を歩いていた。
俺は青道高校の野球部員で寮生なのだから当たり前な筈なのに何か違和感を感じる。
何だ・・・?
疑問を抱きながらもそのまま歩く。もう少しで自分の部屋というところである人物がいることに気が付いた。
その人は顔を真っ赤にさせて両腕で自分を抱き締めるようにしてうずくまっていた。
内心では何が起きているのか訳が分からなくなっているが表にはそれを出さずいつも通りの余裕と意地悪といったイメージを抱かせる笑みを顔に貼り付けて近づいて行く。
アイツは気が付かない。

「沢村、なにしてんの?」

可愛い後輩はその声にビクッと抱き締めたくなるような反応をした。
沢村の近くまで行くとゆっくりと沢村が振り向いた。
振り向いたといっても俺は見下ろしてる訳なので沢村は必然的に上目遣いになっている。

「み、御幸・・センパ・・・ィ」

振り向いた沢村の顔を見た瞬間、俺の中にさっきまであった混乱は消え去った。
その混乱を吹き飛ばした顔とは、頬は紅潮し、大きな漆黒の瞳はうるうると涙を湛え、薄い桜色の唇は微かに開いている。そして何故か心なしか息が荒い。
これらを総合していうなればいつもの沢村栄純とは元気一杯な太陽のような愛らしい少年。
だが、今の沢村は、

妖艶。

その一言に尽きる。

やっべぇ・・・ちょっとくるな、これ。

と、思いつつもやはり顔には出さない。
それより速くここからコイツを移動させないと。
沢村のこの姿を他の野球部員に見せるわけにはいかない。というか見せたらいけない。
そう、この青道高校の野球部の部員達は殆どが沢村に惚れているのだ。
普段から沢村と接することの多い一軍もといレギュラー陣は特に。
その他にも試合で戦った高校の野球部員の奴らも惚れていたりする。
あと、沢村のクラスの奴らとか、故郷の幼なじみの奴らとか・・・ぶっちゃけ野郎全般が敵だ。
女子からは何故かさっぱりモテないがそれは助かる。
全人類が敵というのは流石にキツい。それに女子という生き物は好きとなったら手段を選ばないし(御幸体験談)。
しかも、沢村はみんなの好意に全然気付いていない。これはもうおかしいだろというくらいさっぱりと。
つまり超鈍感。
だから先輩達や同級生達がお菓子をくれたりしても「この人いい人だなぁ」で終わるわけで。
まぁ、増子先輩はお母さんって感じかな。そんでクリス先輩はお父さん。
ま、それはいいとして速く沢村を隠さないと。
ん〜丁度俺の部屋が近いし部屋に連れてくか。
そう考えながら見つめてくる沢村にニッコリと優しく微笑んでから部屋に向かう。
ガチャッと開けて中を見る。
ラッキー、誰もいない♪
口元をニヤニヤと歪ませて未だにうずくまって動かない沢村に近づいて行く。

「ほら、ここにいたら風邪引くぞ」

しゃがんでいた沢村の腕を持って立たせてやる。
沢村は珍しく何の抵抗もなく立ち上がった。
だが、触った瞬間にビクッとまた反応する。
さらに顔を赤くして。

「っ・・・」

そね反応でだいたいのことが分かった。
さっさと部屋に連れて入りきちんと鍵を閉める。

「で、どうしたんだ?」

今度はイヤらしい笑みではなく(御幸に自覚無し、沢村気付かずの)とろけるような微笑みを浮かべ優しく優しく問う。
部屋に入ってからも下を向いて動かなかった沢村が上目遣いで見てくる。
そもそも身長差があるから当たり前なのだが。
沢村は小柄なのだ。そのことがみんなから好かれる一因でもあるのだろうが。

「・・・っ、な、かんか体が熱くて・・・・服とかが当たってるとことかが特に・・・おかしいんっスよ」

どうしたらいいんスか?とでもいいたげに見てくる。
それはもう殺人的なかわいさだった。

「大丈夫」

そういいながら優しく抱き寄せてやる。

「っぁ・・・」

またビクッとしたのを見て思った。
そういえば服が擦れるのでも駄目だったんだっけか。媚薬系のモノを飲まされたな、これは。

「大丈夫だよ・・・栄純」

耳元で吐息と共にいつもなら呼ばない名前で呼んでやる。
それを聞いた沢村はカッと赤くなって瞳をこぼれんばかりに見開く。

「なっ」

強く抱き締めてやるとそれにさえ感じてしまったらしくカクンッと膝から力が抜けて御幸のシャツに思わずすがりつく。
そんな可愛い仕草にズキュンと胸を打ち抜かれながらそのまま耳にキスをして流れるように可愛い唇にキスをする。
触れるだけのキスを何回かしていると、それはそのまま深い口づけになった。
それだけで何の経験もない沢村はメロメロになってしまう。

「ん・・ふぁ・・」

「俺が楽にしてやろうか」

「ぇ・・・」

「その代わり、名前で呼んで」

「名前・・・?」

「そ、俺の名前」
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