Ace of Diamond

□苦手な先輩、可愛い後輩
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目の前を歩くのは今年入ったばかりの可愛い1年生、沢村栄純。
黒髪がいつも以上に艶やかに濡れているので風呂から上がったばかりだということがわかる。
沢村は後ろに俺がいることに気が付いていないらしく華奢な背中を無防備に晒している。

・・・今なら掴まえられるだろうか。

今ならこの通路には俺達しかいない。
静かに走り出して沢村を後ろから軽く抱き締めてやる。

「うぁ!」

すると沢村は体をビクッとさせた。

「は?誰だよ!!」

かなり驚いたらしく声が裏返っている。

「ハハッ、そんなに驚くか〜普通」


「げっ・・・・・・み、御幸一也」

沢村は後ろにいる俺を見ていつも通り呻く。

「げっとはなんだ、げっとは。というか何でフルネーム?」

沢村を後ろから抱き締めた状態で質問するもスルーされ俺の腕から逃れようともがいている。
しかし、御幸と沢村では体格が違いすぎて沢村は御幸の腕から逃げることが出来ない。

「離せよっ」

「俺、一応先輩なんですけど」

「・・・離して下さい」

「嫌だね〜」

御幸が笑いながらそう返すと沢村はまたもがきはじめた。

「は〜な〜せ〜」

「無理だって、諦めろ」

その言葉と共に耳に吐息を吹き込んでやった。

「・・・・っ」

するとみるみるうちに沢村の顔が真っ赤になっていった。
これで静かになったと思ったのもつかの間、逆効果でした。
沢村は顔を真っ赤にしてさらに足を蹴ってくるようになったのだ。
これはさすがに、

「いたっ」

「じゃあ、離して下さい」
「えっ、やだ」

数分間この不毛な攻防が続いた。
が、

「ったく、なんでお前はそんなに俺のことを嫌うんだよ」

この一言でこの不毛な攻防は終わる。
蹴って、もがいてた沢村の動きがピタッと止まったのだ。

「?どうした」

沢村が小さな声で何かを言った。

「・・・・オレは別に御幸先輩のこと嫌ってるつもりありませんけど」

「・・・え?」

それを聞いた御幸は一瞬吃驚した。

「・・・ただ、苦手なだけで、別に嫌ってなんかいません・・・・」

この言葉を聞いてつい手を離してしまった。吃驚しすぎて。
沢村がこっちを向く。顔はさっき耳に吐息を吹きかけた時よりも赤くなっていた。

「って、言うかなぁ・・・・・オレはアンタにオレの投げた球を捕って欲しくてこの学校に入学したんだよ!」

沢村は羞恥で顔を真っ赤に染めて、瞳に涙を溜めながら呆然としている御幸に叫ぶなり猛ダッシュで逃げていった。
すかさず御幸が掴まえようとしたものの沢村の言葉に動揺して呆然としていたため腕を掴み損ねてしまった。
空を切ったその手をそのまま自らの口元へ持っていく。

ヤバい。かなり嬉しい。
「・・・ハハハ」

別に好きだと言われたわけじゃない。
別に愛してると囁かれたわけじゃない。
いつもポーカーフェイスを被っている俺が、沢村にあんなことを言われただけで嬉しさを隠せないほどに嬉しい。
その時初めて知った。
俺は本気で沢村栄純という人が好きだということが。しかも、それは引き返せないところまで来ているという事が。

なんて進行の速い病気なんだ。


ならば沢村をこの手に入れるしかない。
もう殆どは俺のことを好きらしいからそこにつけ込めば簡単に墜ちてくれるだろう。




さて、どうやって墜としてやろうか。
御幸は明日からのことを考えて、口元がニヤリと緩むのを抑えることが出来なかった。










後日談。
次の日から御幸の沢村に対するセクハラが酷くなったという・・・








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