小説2
□朧月
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いつからだろう、アスランが変わってしまったのは。
―――9年前。
カガリが幼稚園児のときに、アスランは隣に引っ越してきた。
後から知ったことだが彼は母親を亡くしたばかりだったらしい。
父子家庭のアスランと、母子家庭のカガリ。
一人っ子同士、小さい頃は毎日いっしょに遊んでいた。
アスランはいつも優しかった。
5年前、カガリが公園で誘拐されかけたとき助けてくれたのもアスランで
カガリにとって彼は絶対的なヒーローだった。
あの頃のアスランは・・・、一緒にいて感情がぜんぶ伝わってきたように思う。
嬉しい、楽しい、愛しい、そんな感情ぜんぶストレートに。
うぬぼれなんかじゃなく、アスランの中で一番近い存在としてカガリは可愛がってもらっていた。
でも。
『ねえ、アスラン!今日そっちに遊びに行ってもいい?』
赤いランドセルを揺らして駆けながら、いつものように腕に抱きつく。
『ちょっ…、カガリ、離れて…』
『え…』
目を合わせてくれないアスラン。
焦ったように距離をとって、足早に去っていく。
『……ごめん、カガリ…』
まるで他人のようなよそよそしさで。
その態度は何日も続いた。
アスランは私立中学に入ってしばらくした頃だったから
中学生男子が小学生女児と遊ぶことが恥ずかしかったのかもしれない。
でももうそのときカガリは恋を自覚していたから、アスランの態度がショックで仕方なかった。
―――それから、微妙な距離ができたまま2年近くのときが過ぎた。
カガリはアスランに追いつこうと必死に勉強して、付属中学の合格通知を手に入れた。
『私、合格したんだよ。アスランと同じ中学に行くの。…だから、前みたいにアスランの家に遊びに行ったりしちゃ、だめかな…?』
合格通知に勇気をもらって、ついにそう言った。
アスランと一緒にいたい。
昔みたいに、一緒に。
戻りたい・・・・!
『カガリと一緒にいるとき俺が何を考えてるか…』
低い声で囁かれて、ハッとしたとき
アスランの冷たい翡翠が、目の前にあった。
『それが分かったら俺の部屋にきてもいいよ』
彼の口元は笑っていたかもしれないけれど、その暗い瞳にすべてのまれて
カガリは身動きが取れなかった―――
昔のアスランとは、180度変わっていた。