小説1

□Second Kiss
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「やっぱり、ベッドはいい…な」

抉るような激しい律動を休めて、アスランは甘い声で囁いた。

「ん…っ…あすら…?」

快感に酔っていたカガリの瞳が、ぼんやりとアスランを捕らえる。

今2人は、軍の医務室のベッドでただの男と女になっていた。
いつも多忙な仕事の合間を縫って抱き合うため、ベッドでの行為は久しぶりだった。


「カガリを抱くのは…やっぱりベッドが一番いい……」


…この艶やかな肢体を、余すことなく存分に愛せるから。



けれど、医務室独特の匂いは、4年前のあの出来事を思い出す――――






【Second Kiss】






C.E.72、ヤキン・ドゥーエ。

ジャスティスの自爆によりジェネシスを破壊した後、アスラン・カガリ・キラは
ボロボロになったストライクルージュでエターナルに帰投した。
肉体的・精神的疲労はすでに限界を越えており、泣きながら迎えるラクスの姿を見ると3人は意識を放棄した。


半日ほどして…最初に目覚めたのはアスラン。
エターナルの医務室のベッドの上だった。

鉛のように重い身体を少しだけ起こすと、隣にはあと2つベッドがあって、キラとカガリが眠っている。
おそらく艦内全体が野戦病院と化しているのだろう、狭い医務室には軍医も誰もいなかった。


…同じリズムで穏やかな寝息をたてる双子。
無事に生きて戻れたことを実感してアスランは大きく息を吐いた。

『……ん、』

ふいに、小さな吐息と共にカガリが身じろぎした。

『カガリ…』

アスランが思わず伸ばした手は届かなかった。
3つのベッドは隣接してはいるものの、アスランとカガリの間にはキラが寝ているのだ。

おそらく誰もアスランとカガリの仲を知らないのだから、この配置は当然といえば当然だった。



アスランはこの距離を歯痒く感じた。
身体がほとんど動かないため、これ以上距離を縮めることができない。

『ん……、ぁれ…』

アスランがもどかしげに思案していると、琥珀の瞳が開かれた。

『カガリ…起きたか…?』

『あ…、アスラ…ン』

カガリは少し瞬きしてから「良かった…」と安堵の笑みをアスランに向けてきた。


ああ・・・

触れたい。
いま・・すごくカガリに触れたい。カガリの体温を感じたい――――



泣きたいほどの衝動だった。
でも身体は思うように動いてくれなくて…

『カガリ…身体、起こせる…?』

『え……う、ん…』

カガリは、どこまで身体が動かせるかを心配してくれているのだろうと思い、
辛いながらも上体を起こして見せた。

すると、アスランが切なげに手を伸ばしてくる。


『キス……したい』


『―――え、えぇッ?』

『もう少し、こっちに来て…』


有無を言わさず手首を掴まれ、引き寄せられる。
間で眠るキラの身体と接するくらいに、2人の距離が近づいた。

『まっまま待っ…!アス…!?//』

『嫌か…?』

揺れる2つの翡翠が、カガリを捕らえる。

『いやとかじゃなくて…っ、だだだってそんな…!///』


カガリの了承を待っていては、いつまでたってもキスできない。
狼狽する彼女の言葉を最後まで聞く前に、アスランは口唇を塞いだ。

『…っ、ん……』


―――初めてのキスは決戦の出撃前、拙い抱擁と共に。
2度目に交わすキスは…生命の温かさに満ちていた。

なぜ俺は、こんなぬくもりを残して死のうなんて思ったんだろう・・・


鳥肌が立つくらいの心地いい口唇を感じて、“もっと”と望むのは止められなかった。






******



「あのキスの後は、大変だったよな…」


乱れた金髪を梳きながら口付けて、アスランは当時を振り返った。
カガリの中にはまだアスランの熱い猛りが脈づいたまま。


4年たって…もうあのときのようなたどたどしいキスではない。
こうして互いを求め、肌を重ねるようにもなった。


「お前がいつまでたってもやめなかったからだろっ//」

「なんか夢中で…。まさかあそこでキラが起きてくるとは思わなかったんだよ…」


そう。医務室でのキスは、間に寝ていたキラの…声にならない声で中断されたのだった。

キラの驚きようはすごかった。

何しろ瞼を開けたら、自分の親友と姉が濃厚なキスをしていたのだ。…しかも自分の真上で。
人のキスを顎の下から、という角度で見てしまう機会はめったにあるものではない。


「あんなとこ見られたから、キラに2年間も監視され続けたんだぞ…//」

「でももう大丈夫だ。今キラはラクスと一緒にプラントにいるんだから……」


妖艶な笑みを浮かべ、アスランは律動を再開させた。



擦れる水音がして、カガリが甘い声を上げる。

次第に激しく打ち付けるものに変わり……しかし、アスランは急にその動きを止めた。



「駄目だ…イけない…;」

「え…っ?」

「あんなこと思い出したせいで…。キラがどこかで監視してるような気がして、集中できない…」


もはやアスランにとって、シスコンキラはトラウマとなっているのだ。
情けなくうなだれてしまったアスランに、カガリはつい吹き出してしまった。


「―――ふ、あははっ。自分で大丈夫って言ったくせに」

「あいつ、プラントへ行ってからも俺達の邪魔をするつもりだ…;」


せっかく久しぶりにベッドでカガリと愛し合っているというのに。
医務室の匂いのせいだろうか。

早く2人で暮らして、家のベッドでゆっくりカガリを抱きたい…。

そんな願いを込めて、アスランはカガリの薬指に光る紅い石に口付けた。


キラの呪いは思ったよりずっと根強いものとして、アスランの中に残ったのだった。






END

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