小説1

□First Kiss
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「今日は、あそこなんて…どう?」

「えっ」

耳にキスをしながらアスランが囁いた言葉の先には――――


彼の愛機、ジャスティスがあった。






【First Kiss】






大戦後、正式にオーブ軍へ所属したアスランは、軍本部の一室を住居としていた。
そのため、アレックスとしてアスハ邸で暮らしていた時とは違って、
どちらかの部屋で夜を過ごすことはできない。
2人が愛を交わす場所といったら、執務室・仮眠室・医務室などに限られていた。


別にスリルや好奇心によるものではなく、本当にそういったところでしか抱き合う時間がないのである。

しかもお互い多忙な身であるから、そんな機会さえ滅多にあるものではなくて。


それでも、以前よりずっと…互いを近くに感じていた。
社会的立場も。心の距離も。



「ごめ…もう挿れるよ…」

アスランが余裕なく言った。

2人分の甘い吐息で、すでにコックピット内は湿り気を帯びている。
シートに座ったアスランが、半裸のままのカガリを上に乗せる形で、やや性急に繋がった。


「待っ…あ、ああぁぁんッ…!」


待ってと言っても、そこはもう十分過ぎるほど潤っていた。

ただ…いつもの挿れる直前の、啄ばむようなキスと瞳の確認が無かっただけ。
何度肌を重ねても、カガリは押し入ってくるこの感覚に慣れることはできず、悪態をついた。


「も……ばか…っ」

「だって、久しぶり…で…」


愛しい人を目の前にして我慢なんて、できるわけない。


「やっぱり、カガリの中…すごくあったかい…」

「あっっ、はあ…あぁぁっ…!」


そう言い終わらないうちに、アスランは腰を揺らしていた。


奥深くまで…カガリの全てを味わうようにして、下から突き上げる。
一番弱い部分を擦ると、カガリは一層高い声をあげて締め付けてくる。

その目がくらむような刺激に、アスランも声を抑えられなかった。


言葉を交わすこともなく…ただ全身で感じ合う。
熱い繋がりを、腕の中の存在を、荒い呼吸を。

昂ぶった躰は…より深い愛を求めて、激しさを増した。



そこにはしばらく情事独特の音と喘ぎ声だけが響いていた。






躰の震えが治まってくると、カガリはアスランの背後にあるシートに唇を触れさせて、呟いた。

まだ名残惜しくて下半身は繋がったままだった。


「……4年ぶり…だな」

「ん?」

「ほら、お前…お父さんと話がしたいって、ジャスティス置いてシャトルでプラントに行った事あっただろ?」

「ああ…」

カガリと出会って間もない、前大戦の…。まだ父親が生きていた頃。
あれからもう4年になる。

「あのとき…心配で不安で仕方なくて…。私、ジャスティスの中で寝泊まりしてたんだ」

「ええっ?」

「アスランが無事に戻って来るようにって、祈るように…ここにキスしたの、思い出した」

はにかむように笑って、カガリは先ほど口付けたシートを優しく撫でた。

「もうあのときのジャスティスはバラバラになっちゃったけどな…」

「カガリ…」



…父親に撃たれて、拘束されて。
それでも生きて戻ってこれたのは、ハウメアの護り石のおかげだと思っていた。
でも本当はそうじゃなくて・・・生身の女神がここで祈っていてくれたから――――?


「ありがとう……嬉しい」


気がつけば、素直に言葉が出ていた。

幸せそうに微笑む女神の頬を撫で、感謝の気持ちを込めてキスを贈る。
じゃれ合う猫のようにくすぐったいキスを交わしていると、アスランはふいに低い声を出してキスを止めた。


「……ちょっと待て、カガリ。」

「へ?」

いきなり様子が変わったアスランに、カガリは瞬きした。

「じゃあ…カガリのファーストキスは、俺じゃなくてジャスティスって事か?」

「…はぁ? 何言ってんだよ、相手が人じゃないんだから、普通キスにはカウントしないだろ」

「いや、カウントする!」

人じゃないならいいと納得できるものではなかった。
他人の機体じゃなく、自分の機体だからといって許せるものでもない。
なぜなら…今まで一度も、カガリから自然にキスしてくれたことがないのだから――――(強要ならあるが)



まさか、恋人である自分がまだ得てないものを、自分の愛機が4年も前に得ていたなんて。

しかも自分達が初めてのキスを交わす前にだ。


「……すごく面白くない。」


呟いた本人にしか聞こえない小さな声だった。


「カガリ、キスして。今すぐ。」

「ええっ//なんだよ急にっ!」

そんな風に真顔で言われて、はい、と簡単にできるはずがない。

「純粋な愛情表現なんだから、できるだろ?」

「なっ…そんなこと…っ///」

「軽いやつじゃ駄目だぞ。ちゃんと舌も使って」

「……む、無理!!///」

「してくれないなら、カガリが立てなくなるまでするけど…いいのか?」


このときを待っていたかのように、カガリの中でアスランの質量が増した。


「ぁあ…っん!やっ…」

「ほら、早く。」

「…っ、早くとか言われて…できるかバカぁ…!」

「じゃあ、今日の夜の仕事は全部キャンセルだな…」


そうして…狭い密閉空間は、再び湿り気に満ちた。


カガリがおとなしく言う事を聞いたときには、すでに力尽きていて、
結局キスは触れるだけのものとなってしまったのだった。


カガリの方から甘いキスが贈られる日は、まだ遠い。







END

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