小説1

□巡査部長イザーク・ジュール番外編W
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2丁目のパチンコ店などが入っている7階建てビルの屋上に、その立てこもり犯はいた。
30代くらいの男が一人。
屋上でウロウロしているのが見える。



「人質の安否は!?何人いるんだ!?要求は!?」

俺は到着するなり近くの警官に状況を確認した。
しかしそこで意外な情報を耳にしたのだった。


「あっ…いえ、人質はいないです。建物内にいた人たちも全員避難済みです」

「は!?」


人質はいない?
それは喜ばしいことなのだが俺は拍子抜けしてしまった。

改めて屋上を見やる。
その男はわけのわからないことを大声で叫びながら自分のこめかみに拳銃を当てていた。
どうやら借金を背負っていて、先ほどパチンコで大負けしたらしい。


「自殺志願者か…」


これもまあ一応立てこもりであることには変わりない。
拳銃を持っていることだし、クスリもやっているかもしれない。
今のところ周りに危害を加える様子は無いないようだが…。



「…これは、持久戦になるかもな」


相手は一人。
体力も集中力も、いつまでも持たないのは明白だ。
人質がいないなら持久戦にもちこみ、容疑者の気が緩んだところで突入して確保する―――
それが現時点で俺が描いたシナリオだった。

いくら自殺志願者といえども、こちらが強引に突入して自害されては困るのだ。



「半径200mに規制線を張れ!一般人は決して中に入れるな!」


俺はそう指示を出したあと、周りの警官を見渡してアスランがいないことに気づいた。
てっきりもう着いていると思ったが…。
別の部屋で仮眠をしていたのだろうか。

ケータイにかけてみるか。



「イ、イザーク先輩っ!」


俺がスマホを手に取ったとき、なにやら狼狽しているようなダコスタに呼び止められた。
ダコスタは、すぐ横に停まっていたパトカーの無線機を手にしていた。


「署にあるもう一台のパトカーに連絡をとろうとしたら…無線機からヘンな声が……!」

「は?」




『あっ…!』

『はあ……はあっ…カガリ…』


『あん…っ…だめ、だめだってばアスラン!こんなとこで…っあッ…!』

『ああ、そんな可愛い声だして……俺を煽ってるのか?大丈夫だよ、ちゃんと最後までしてあげるから……』



ぬわあああああああーーーー!!!?






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