小説1

□巡査部長イザーク・ジュール
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俺の相棒アスラン・ザラは今、恋というものをしている。



ザフト警察署・刑事課所属の俺たちは、今まで現場で数々の事件を解決に導いてきたコンビだ。
自分で言うのもなんだが署内では一目置かれている。
いつでも冷静に仕事をこなし、異性から声をかけられても紳士に断って誘いに応じることはない。
そうして誰からもクールで硬派なイメージを持たれていた。


あいつ…カガリ・アスハが交通課へやってくるまでは。



「アスラン貴様ぁ! この報告書は一体なんだ!」

「えっ…ああ、すまないイザーク…」

心ここにあらず。
彼女がうちの署へやって来てからといものの、アスランはずっとこの調子だ。
フヌケ状態で仕事も身に入っちゃいない。
つまり頭の中がすっかりピンクに染まってしまったのだ。

かといって別に2人は付き合ってるわけではなくヤツの一方的な片思いだ。
本人から気持ちを聞いたわけではないが、見ていれば一目瞭然。
署内でも最近アスランがおかしくなったという声がちらほら聞こえてきていた。
こんな情けないアスランは見たことがない。

まったく恋になんぞうつつを抜かしやがって!!!
だから仕事が片付かないんだ、俺の苦労を考えろ!!




「さぁ、ちょっと一息いれるか」

「待てアスラン、どこへ行く」

「…コーヒーを買いに行くだけだよ」

「……(ウソだな)」


―――思ったとおり。
怪しいと思って交通課の前まで来てみたら
今日も空いた時間を見繕ってアスランは交通課を覗いていた。
声をかけるわけでもなくただ彼女を目で追うだけ。

…貴様、女子中学生か。


俺たち刑事は私服で働くことが多いが、彼女は常に制服だ。
同じ制服を着た女が何人もいる中、なぜカガリ・アスハだけアスランの目に止まったのかは分からない。
今まで浮いた話ひとつない相棒の好みなんて知らなかったが、ヤツは金髪フェチだったのだろうか。
(銀髪フェチじゃなくて良かった)


けれど、こんな事態になってしまったのは、決して彼女が悪いわけではない。
彼女は仕事を真面目にこなすし、アスランを誘惑したわけではないことは分かっている。
あいつが一人で勝手に転がり落ちただけ。
カガリは昔から芯がしっかりしていていい奴だ。

―――実は、まだアスランには言っていないが、俺とカガリは中学時代の同級生なのだ。
よくグループであいつの家へ遊びに行ったりして仲が良かった。
そのうちアスランにバレるかもしれないが今は言う気がおきない。

一体どうしたらアスランは以前のような仕事モードに戻ってくれるのだろうか…



「?」

さっきまで交通課を覗いていたアスランが、ふいに動き出した。
カガリが出てきたからだ。

カガリはアスランに目もくれず普通に廊下を歩いていく。(このあたりが脈なし)
アスランは声をかけようとしているらしく、その後ろをついて行った。
しかし勇気がなくなかなか声がかけられないようだ。
なんだかこっちがもどかしくなってくる。

そうしてアスランがもたもたしているうちにカガリはトイレに入っていった。



訂正しよう…。

ヤツは女子中学生などではない。
これは世にストーカーと言うものだ!


もう見てられん!!!





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