恋唄
□恋唄 第5話
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これからどうしていけばいいのか…
俺は頭を抱えた。
バイトや学業に打ち込んでも、近くにカガリがいると思うだけで心が乱される。
叫びたくなる。
自分が壊れていくような気がした。
―――その翌日、シモンズ准教授からもらった話は、俺にとって特効薬のようなものだった。
痛みから解放される“希望”だった。
「アスラン君、アメリカに行かない?」
「……え?」
「来月バージニア州のEIA本部で、エレクトロニクスの最新技術が集まる展示会があるの。去年までうちにいたラミアス教授の推薦よ」
「EIA…」
EIAとは、電子工学を扱っている企業が加盟している団体のことだ。
電子工学を専攻している俺にとって夢の先にあるような世界。
それでも今の俺は、夢のことよりもアメリカという遠い地の名前に惹かれた。
「キミも知ってる通り、電子部品から軍事産業まであらゆる技術の結晶よ。間違いなくプラスになるわ。費用はこっちで出すし、どう?」
「ありがとうございます。ぜひ行かせて下さい」
即答だった。
この針のむしろのような状態から抜け出せる、と思った。
「そう言ってくれると思ったわ!さすが我が校期待の星!」
喜ぶ女史に、俺はややせっかちな自分の希望を述べた。
「準備ができ次第、すぐに日本を発ちたいんですが」
「え?でも展示会までまだ1カ月あるわよ?」
「どうせなら向こうでいろんなものを見たいんです。滞在費は自分で用意できますから」
去年一年間バイトに明け暮れたおかげで、金銭的には何の問題もなかった。
「分かったわ。キミならしばらく大学を休んでも大丈夫だしね。向こうにも連絡しておくわ」
「ありがとうございます」
一礼して教授室を出ると、俺は誰にも会わずに自分の家に帰った。