風薫る花

風薫る花 <第3話>
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――――地球 ZAFT軍カーペンタリア基地。




「じゃあ、アスランは生きてるんだね!?」

「ええ、生命反応がありますので、それは間違いありません。」


通信室で、キラは思わず輝くような声をあげた。

カグヤの路地裏でアスランとはぐれてしまった後、
キラは成す術もなく一人でカーペンタリアへ辿り着いていたのだった。

ここに来ればアスランの生死がわかるからだ。
・・・その所在さえも。
“管理”という名の柵(しがらみ)が、今は少し有難かった。

「座標をプリントアウト致しますので…」

「ありがとう」

そう一息ついたところへ、別の通信管制官が入ってきた。


「あの。議長…いえ、総帥から通信が入っておりますが…。」






【風薫る花 第3話】






『…報告は聞いているよ。大変だったみたいだね。』

「いえ…」

別の通信室で、キラは一人モニター画面に向かい合っていた。
向こう側にいるのは…プラントの最高権力者であり、裏ではZAFT総帥の顔を持つ人物。
漆黒の長髪が静かに揺れている。

『アスランの所在も分かったようで安心したよ。』

「はい」

『まぁ君達なら、あの歌姫のような…愚かなことはしないと信じていたがね…。』


「……」

歌姫。
それは…キラの恋人である少女の、万人が認める代名詞だった。

1年前、彼女は何の前触れもなく姿を消したのだ。
ZAFTから。・・・キラの前から。
脱走、そして裏切り。
その日から、ZAFT内で彼女の名前が禁句となっているのは、暗黙の了解だった。

キラは思わず歪んでしまう顔をなんとか抑えた。



『それより今後の事なんだが、ちょっとこちらでも色々あって…今は情報収集に追われているんだ。』

「…え、何かあったのですか?」

『いや……。今回の君達の任務については、少し様子を見る事になりそうなんだよ。』

「…?」

キラは怪訝そうに画面の人物を見つめた。

だいたい今回の任務は、最初から何かがおかしかったのだ。
自分達に与えられた情報は極端に少なく、本当に任務内容だけが端的に書かれていただけだった。


そこに表記されていた人物。
たいてい人物名が記されていれば、任務内容は暗殺だ。

けれど――――




『その人物が、行方をくらましたらしい。今、オーブの公式の場ではその姿が確認されてないというんだ。』

「え…!?そんな…っ」

『こちらでも行方を追ってみるから、君はアスランと合流してしばらくオーブに潜伏してもらいたい。』


「……。あの…、議長」

キラは一拍置いて、ずっと気になっていたことを問いかけた。
こうして議長と話せる機会はそう多くはない。
今聞かなければ、もうチャンスはないだろう。

『なんだね』




「なぜ―――…なぜ“拉致”なのですか。“暗殺”ではなく…」




殺さないに越したことはない。
キラだって、アスランだって、進んで殺したい訳がない。
しかし、今回の根本的なものを知らされてないとなると、どうしても何か引っかかるのだ。

画面の向こう側で、長髪の男は柔らかく受け流した。

『…君が知る必要は、ないと思うのだが?』

「……も、申し訳ありません…」

『いや。とにかく、彼女の手がかりを掴んだらすぐに知らせるよ。』

そう言って、男は笑みを消し…絶対的な力を込めた視線をキラに向けた。





『必ず、生きたまま連れてくるのだ。――――オーブの姫、ユラ・アスハ嬢を。』






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