風薫る花

風薫る花 <第2話>
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あの時なぜ彼女が俺の頭を撫でたりしたのか
なぜ「大丈夫」などと言ったのか


なぜ・・路地裏で行き倒れていた男を、家に置くなんて言ったのか。


俺に分かるはずもなかったんだ。





これから殺す奴のことを考えるなんて・・・そんな怖いこと


臆病な俺にはできないから――――






【風薫る花 第2話】






「ちょ…っと待て……、何を、やっている……!?」


アスランはなんとか上体だけ起こし、唖然とした口調で問いかけた。
自分の寝ているベッドの隣に、謎の少女―――カガリが布団を敷き始めたのだ。

「うん?」

カガリは何でもないように返した。




“落ち着くまでここにいていいぞ、アスラン”

昼間カガリはそう言ってから、ずっとアスランのそばを離れようとはしなかった。
イスではなく床に座り込み…ベッドに肘をついて色んな話をし始めた。

花の話を延々としたかと思うと、いきなり食べ物の話になって、好きな食べ物をたくさん挙げ、
カグヤというこの町がどれだけ居心地がいいかという話もした。
アスランと同じ17歳で、この小さい家で一人暮らしをしていることも分かった。


こんな得体の知れない人間に、まるで心を許したかのように無防備な姿をさらす少女。


不審に思われていないことに関しては都合がいいのだが、ここまでくると喜んでもいられない。
ナチュラルとは一体何を考えて生きているんだ・・と、アスランは理解できない気持ちでいっぱいだった。




そして、夜。
さらにアスランの理解できない事を、この少女は目の前でし始めたのだ。

「何って、今から寝るために布団敷いてるんだけど??」

「だから…っ、なんで…ここに敷いてるんだ…。」

アスランの寝ているこの部屋はもともと空き部屋で、カガリの部屋は別にある。
だいたい、友人でもない2人が同じ屋根の下で暮らすこと自体、不自然だというのに
同じ部屋に布団を並べるなんてことは論外である。

しかし、カガリにとっては大した問題でもないようだった。

「私の家なんだから、どこで寝ようと私の勝手だろ?」

「ここで寝るつもりか…!?」

あまりに深刻そうなアスランの表情に、カガリは面白くなって思わず吹き出した。


「なにそんな怖い顔してるんだよ! 別に病人を取って喰ったりしないから安心しろ!」


その笑顔を見て、アスランは無言で頭を抱えた。






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