さきくさ

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「ほんっとう!信じらんない!」
「はいはい」
「あんた何!?一体何なの!?やっぱ変態なわけ!?」
「…だから、小鳥さんが寝ぼけて私に…」
「俺は間違っても抱きついたりしない!」

朝食のコーンフレークを口に運びながら大きくため息。先ほどから顔を真っ赤にしてわめき散らしている少年にチラリと視線を向けては、やっぱりまたため息。今朝方のことでとにかく機嫌を悪くしてしまったらしい彼。本当に起きると可愛くない。ムシャムシャとコーンフレーク咀嚼しながら、何気なしにテレビの電源を入れた。

「……」
「……」

特にニュースが見たいだとか、そういうわけではないのだけど。だけど日常の習慣というか、テレビを付けて画面をなんとなく眺めるのは私の癖だ。同時に食事中はそちらに集中してしまって無口になりがちなのも癖。だからかテレビの電源が入ると会話がプツンと切れた。空間にはニュースキャスターの抑揚に欠けた声と食器の音だけが響く。

「………」
「………」

カチャリカチャリ響いていた無機質な音はコーンフレークを食べ終わると同時に止み、今度はテレビの音だけが嫌に耳についた。しかし無音ではないぶん、会話がなくても気にはならない。少なくとも私は。

「…ねえ」
「はい?」
「………」
「何ですか?」
「………」
「?」

不意に口を開いたと思ったら、スプーンを握りしめて皿を見つめて口を閉ざしてしまった。どうしたんだろう?首を傾げてみるものの、今朝方見た彼の腕の傷跡を思い出してなんとなく聞くのに気が引けた。そして私も口を閉ざせば再び訪れる沈黙。

「……、ねえ」
「何ですか?」
「………」
「?」
「………」

何、一体どうしたの。口を開いては閉じて呼べば無視して。意味がわからずつい眉をひそめれば、彼は「もういい!」と席を立ってソファーにダイブ。

ええええ。私何かした?

拗ねたように膝を抱える彼を困ったように眺めて、とりあえず後片付けをしようと食器を流しに運ぶ。食器を洗いながら彼が怒ってしまった理由を考えてみたが、やはり思い浮かばない。今日は大学が午後からだからのんびりできるけれど、さすがにこの雰囲気のまま家を空けるのは気が引けるし。少し考えた後に「小鳥さん」と呼びかけてみた。

「………なに」

あ、返事した。
膝を抱えたままチラリとこちらを見る瞳にホッと息をつきながら、表情を緩める。そして彼のそばまで歩み寄った。

「なにさ」
「いえいえ、ただ急に大人しくなってしまったので具合でも悪いのかなって」
「………」
「どうしたんですか?」
「…っなんだよ」
「え?」
「何だよさっきまで話しかけてこなかったくせに!」
「え…、え、えええ?」
「意味わかんない!ばか!」

彼はまた顔を赤くしてそっぽを向く。一瞬意味がわからずキョトンとしてしまったが、もしかして朝食の時にテレビを見ながら黙りこくったことを言っているのだろうか。え、ってことは…

「かまってもらえなくて拗ねてるんですか?」
「なっば、バカじゃないの!?あんたやっぱ変態!このバカ!!」

うわあ、顔真っ赤。
思わず吹き出してしまった。すると彼の怒りやら羞恥やらに拍車がかかるわけで。そばにあったクッションを鷲掴みにしては私目掛けて投げてくる。それすら笑いながら受け止めれば、今度は「バカ!」と怒鳴るものだから余計おかしくなってしまった。

「も…もう脳みそないんじゃないの!?頭空っぽ!」
「これでも大学に通うだけの学力はあるんですよ」
「ふん、どうだか!」
「あ。大学で思い出した。私今日は午後から講義がありますから、少し家を空けますね。」
「な…っ」
「あれ。寂しいんですか?」
「違う!!」

再び顔を赤くして怒鳴る彼。いい子で待っていてくださいねと頭を撫でてみたら、予想に反して大人しくなってしまったから驚いた。とりあえず家にいるときは極力かまってあげよう。なんて一人で頷きながら、彼の姿を眺めた。




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20091003

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