darkness


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愛されたかった。
欲を言うなら女として。

隣にいたかった。
弟ではなく、男であるアナタの。







だからどうか―――、












「サソリ、姉さんは?」

「!」



夕飯が並べられたリビングへ辿り着くと同時に母が問いかける。
それに一瞬だけビクついた自身の肩。
しかし必死に平静を装い、言葉を紡いだ。




「…知らねえ」

「なあに?
アナタたち高校生にもなってケンカしたの?」

「………っ」

「まったく…
まだまだ二人とも子供なんだから…。」




苦笑しながら母は姉の部屋へと向かった。
ぼんやりとその様子を見送って席へと着く。

そうすれば少しして母に連れられた姉がやって来た。

目を赤く腫らした姿は、まるで泣いた後のようだった。





「まさか泣くようなケンカになってたなんて母さんビックリよ」

「!」



夕食の最中に、不意に母が口にした言葉に箸を持つ手が震えた。

姉はまるで先ほどのことなど忘れたかのような笑顔を浮かべ、答えていた。




「はは、私もまさか弟に泣かされるとはなー」

「姉さんが泣いたのを見たのは小学校以来だものね」

「あれ?私中学の卒業式で泣いたけど?」

「あら?そうだっけ?」

「泣いた泣いた。
式の後に教室で泣いた。」

「本当、姉さんって人前では泣かないわよね」





何も変わらない、いつも通りの姉の姿。
瞼は赤く腫れているけれど、浮かべた笑顔はいつもと何ら変わりがなかった。

あの事が、まるで自分が見た夢幻の類ではないのかと、思ってしまうほど…。





「…なーに暗い顔してるのさ、弟よ」

「!」

「心優しい君の姉はケンカのことなんかすっかり忘れて清々しくご飯を食べてるのに、気にしてるなんて男のくせに女々しいヤツだなあ」

「!
…うっせーよバカ」

「ば…っ!?」

「ほらほら、ケンカしない」





乾いた笑いを零して、いつも通りの時間は過ぎていった。

けれど翌日、姉は体調不良を理由に学校を休んだ。

朝食時の空いた席が、無性に虚しかった。












今思えば、






何故あの時姉ときちんと話しておかなかったのか。






もしそれが異常なモノだとしても、向き合っていれば、




自分の立場をわかっていれば













自ら罪を犯すことにはならなかった



==========
後書き

続きます←


20090403
 

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