さきくさ

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「はあ、」

何度目かのため息を盛大に零した。視界の端にはバタバタと毛布を運ぶ彼女の姿がちらついている。

車でこの家に向かう途中に聞いた彼女の事情。それは一般的に言わせれば後先を考えてない無謀なもので。反面道徳的視点から見れば手本になるようなもの。
詰まるところ汚い大人からしたら綺麗事そのものだった。

…金髪の少年が、ソファーで横たわる青年の傍らで不安げな顔をしている。
確かに放ってはおけないだろう。自分だって同じ状況に置かれたらそうしたはずだ。だが、それにはあまりに何も知らなさすぎる。

「………」

何気なしに少年の容姿と、青年の「白緑」と名を頭の中で反芻した。

(…白藍さんとこで調べてみるか…)

せわしなく動き回る彼女に一言声をかけて、静かにその場を去った。



***



「……そろそろ…」
「!」
「話して、くれませんか?」
「……」
「少しでもいいので…、アナタたちのことを…」
「………」


半さんが玄関の向こう側に消えたのを確かめて、静かに口を切った。ただひたすらに、目を閉ざした青年を見詰める少年の面持ちは沈痛で。私が今彼に投げかけた言葉がどれほどの重みを持つのか、彼の顔を見るたびに軋む胸にそれを痛感した。

でも、いつまでも見てみぬ振りをするわけにはいかない。
この子にとっても、それは決して良いとは言えないことだ。

ただひたすら彼が口を開くのを待った。張り詰めた空気に肌がピリピリと痛む。重い沈痛に時間さえ止まってしまったかのような錯覚を抱きながら、じっと答えを待った。


「俺…」
「!」


ふと、長い沈黙の後。彼は俯いたまま、かすれた声で空気を震わせた。


「……」
「……」
「……」
「小鳥さん?」


しかしプツンと黙り込んでしまった彼に首を傾げる。表情は今だ暗く、思い詰めた面のまま。
…やはり聞くには時期尚早なのだろうか…。
小さく息を吐き出し俯くと、再び不意に彼が口を開いた。


「鶸」
「え?」
「小鳥じゃない…鶸…」
「ひわ…?」
「だから、俺の名前だって」
「……!」


ハッと息を呑んで、向けられた蒼い瞳に目を見開いた。
どこか影を残しながらも、かすかに揺れてる瞳はひどく綺麗で。



彼の、心中が垣間見えた気がした。




+++


20091203

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