さきくさ

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びゃくろく∞小鳥さん∞注射針∞孤児?
そして病院≠ニ警察≠フ二つの文字には上から大きくバッテン。
端から見たら得体の知れない単語の羅列をノートの端っこに書き散らす。自分で書いていて言うのも何だが、私にもさっぱり分からない。頬杖をついてその単語たちを睨み、シャーペンの先でトントンと単語一つ一つ突っつく。きっとこれらの単語たちを繋ぐ何かが分かれば、あの子のこともわかるのだろうけれど。
ノートの左側に置いてあるいちごオレを手に取り、ストローに唇つけてズルズルと啜った。

「漠然とし過ぎてる…」
「まあ、大変ですね」
「!」

ポロッと何気なく零した言葉は、不意に私の前に現れた存在によって拾われた。目の前で揺れるフワフワした赤みの強い髪に、反射的に「菖蒲、」と口にする。すると彼は僅かに眉を寄せて「銀朱です」と訂正した。彼、坂上菖蒲こと銀朱は私と同じ学科に通い同じサークルに入っている私の数少ない友人だ。女性のように繊細で綺麗な顔立ちで、実際私も最初彼を女だと思って話しかけたことがある。もちろんそれがきっかけで友人になれたのだけど。それに実家が古い神社とかで、跡取りである菖蒲は成人したらそこの主としての名前に「銀朱」と名乗るというなんとも面倒な習わしを私に強要してくる。…別に在学証明書に書かれてあるのが菖蒲なのだからそっちでいいじゃないか。

「どっちでも変わらないと思いまーす」
「あまりからかわないでくださいますか?」
「私はあやめって響きの方が優しくて好きだけど」
「銀朱ですよぎんしゅ!」

パッと私の手からいちごオレを奪い取り、彼はムッとした表情で私を見た。それについ眉を寄せると彼は「わかりましたか?」と大人しく奪い取ったいちごオレをテーブルに置く。何だか大人気ないやり取りだなあ、なんて一人苦笑して、いちごオレを再び口に運んだ。

「でもどうしたんですか?貴女がそんな難しい顔してるなんて。」
「うーん…。ちょっと怪我した小鳥を拾って」
「小鳥?」
「親元に帰るのを嫌がってて。私は構わないから家に置いてるんだけどね。でも何だか事情が複雑っぽくて。」
「まるで喋るみたいですね。インコとかキュウカンチョウですか?」
「うん、すごくうるさい」

はあ、と深くため息をついて笑ってみせる。すると何を思いついたのか、彼はああそういえばと口を開いた。

「私の知り合いにこの大学の遺伝子学を勉強してる方がいらっしゃるんですが」
「!」
「最近実験用の鳥が逃げ出したとか言ってましたねえ」

え、?

「へ、え…そう、なんだ」
「それじゃありませんかね?」
「あ…ど、どうだろう?」
「私も後で聞いてみますね」
「……うん」

頷いて返して、無意識にギュッと胸元を掴んだ。意味もなく心臓が飛び跳ね、手のひらが汗ばむ。ああ、嫌な汗だ。背筋が冷えた気がして息を呑んだ。

気のせいだ。気のせいだ。

言い聞かせるように念じる言葉。頭の奥深くで何か、いけないものに触れようとする己の思考を無理に踏みとどめる。
脳裏に遺伝子学という言葉と彼の腕の痛々しい針跡が螺旋のように捻れて繋がった。

「?どうしました?」
「う、ううん。何でも…」
「そうですか、それじゃあ私は行きますね」
「うん。また…」

笑顔を浮かべながら小さく会釈をした彼を見送り、右手に持っていた空になったパックをそばにあるゴミ箱目掛けて放り投げた。軽い音をたてたそれは運良くゴミ箱に入り、それを見て私もゆっくりと立ち上がる。

…帰ろう…。

無意識にも不安になるのは、さっきの言葉のせい?
ギュッと唇を噛んでバックを抱き締めるように抱える。何かに急かされるように足早に大学を出た。


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銀朱さん登場☆
主人公のよき友として活躍させたい…っ

20091011

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