darkness


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今更アダムとイブなんかでいられないでしょう?

楽園なんて、どこを探しても初めからないのだから。




だから





私は私と同じ血を持ち、私より私に溶け込む貴方を愛する…。











――――――――――










「………っ!!」



唇に触れる柔らかさ。
それは昨日と同じモノ。
窓から差し込む真っ赤な夕陽に照らされた部屋の中で、自分と同じ琥珀色の瞳を見る。



―――そして自身の体に覆い被さる細く小さな体の主を、とっさに退けようと肩を掴んだ。



「…、っは…、やめ…」

「………」



細い体を押し返し、唇が離れた隙に息を吸い込みながら言葉を紡ぐ。
…しかし女は、構わず無表情のまま再び唇を重ねてきた。




「―――!!」









―オレが何かしたのか?





脳裏をよぎる疑問。

怒らせるようなことをしたのか?
苛立たせるようなことをしたのか?
赦されないようなことでもしたのか?

思考を巡らせても、心当たりはない。

それに第一姉は、欲を満たしたいだとか、こんなことをするような人間ではないはずだ。

人一倍真面目で、努力家で、面倒見が良くて。

弟としてずっとその背中を見てきた。

信頼できる家族の一人だった。







なのに、何故?









「―――っ!?」




不意に、口内に何かが侵入してきた。

背筋にゾクリと氷塊が滑り落ちる。

しかしとっさに腕でその体を離し、突き飛ばした。






―ガタンッ!






「……痛…っ」

「………!」


突き飛ばした体はベッドから落ち、ドアに背をぶつけ小さく呻く。

真っ赤な夕陽に照らされた彼女の琥珀色の瞳は、ただ虚空を凝視していた。

―――その姿に苛立ちと悲しみと罪悪感と困惑がよぎる。


早くこの空間から逃げ出せと悲鳴を上げる本能に、理由を問いただせと叫ぶ理性。

矛盾という矛盾の感情に呑まれそうになりながら、ベッドから下り、床に座り込む姉の姿を見詰めた。






「………っ」






―――そして唇を噛み締め、その場から逃げるように部屋を飛び出した。


















「…………」





自分の真横を通り、部屋を出て行く弟の姿を横目で見た。

いつしか自分を追い越し、“男”になっていたその姿が何故か無性に悲しく思えた。

“女”ではなく“姉”としての立場を与えられた自分。

きっと彼の隣には、私が名前も知らない女が当たり前のようにいるのだろう。



十年も前に自分だけを見ていてくれたあの琥珀色の瞳は、もう二度と自分を見ることはない。



おそらく明日には警察にでも突き出されるだろう。
あるいは病院か。


自嘲気味に思っては乾いた笑いを零し、俯いて目を閉じる。








「…羨ましいな…」



頬を滑るぬるい雫。
ジワリと滲んだ視界を睨みながら呟いた。




「アダムに愛されたイブは…羨ましい…」






たとえ禁忌でも。
楽園を追放されても。
愚かでも。








罪でもいい。










愛されたかった






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後書き

今回は切なめ。
もうちょい続くので完璧なまでのヒロイン→サソリな関係をお楽しみください☆
 

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