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□じじい×2と羊一家の話
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―ある日、ジャミールにて―


「………」

ムウはいつになく不機嫌そうな表情で、牡羊座の聖衣の手入れを行っている。
仕上げに使われる磨き布で、これでもかと言わんばかりにヘッドパーツをごしごしと拭いているのだ。

「…どうしたというのだ?ムウよ」
その様子を目の当たりにしたセージは、思わずムウに声を掛ける。

「っ!!せ、セージ様……」
ムウは一瞬、驚いたようにセージを見やるが、すぐに手元へと視線を戻してしまう。
「別に…何でもありません……」
「そのような事をして何でもない訳なかろう?」

ずっと磨かれていたのだろう…既にヘッドパーツはピカピカだ。

「私で良ければ、話し相手にはなるぞ?」
セージは穏やかな笑みを浮かべると、ムウの隣に腰掛ける。
今は教皇の地位を退いたものの…やはり、若い聖闘士が思い悩んでいる姿を見ると、つい手を貸したくなってしまうのだ。

「…その……」
ごとり、とヘッドパーツを置き、ムウは深いため息をつくと、呟くようにこう言った。

「…シオンもハクレイ様も、貴鬼を甘やかしすぎなのが気になって……」

その言葉に、セージは、ついこの間も兄ハクレイが、シオンと貴鬼を連れて遊びに出かけている様子を思い出した。

……ようするに、ムウは貴鬼を二人に取られて嫉妬していたのだ。

「それは仕方ないと言えば仕方ないな……あれぐらいの年の子供は可愛いものだ」

恐らく…いや、間違いなく、ハクレイは貴鬼を本当の孫のような感覚で愛でているのだろう。
実際、セージも孫のような感覚で貴鬼に接している。

「し、しかし……」
「だがな、ムウよ」

セージはおもむろに、眉間に皺を寄せているムウの頭に手を置いた。

「お前も、私達から見れば可愛い孫弟子なのだ。もう少し甘えても良いのだぞ?」

そして『いい子いい子』という言葉が似合いそうな感じで、ムウの頭を優しく撫でる。

「…………」
「……ムウ?」

セージは、突然黙り込んでしまったムウの様子に首を傾げる。


しかし―次の瞬間、ムウは耳まで真っ赤になると、慌ててセージの手を振り払った。


「そ、その…わ、私……夕飯の買い出しに行ってきます!!」

そう言うなり、ムウは瞬間移動でその場から消えてしまう。

一瞬呆気にとられたセージだったが、すぐにやれやれと肩を落とした。

「頭を撫でるだけで、あのように照れるとは…シオンの奴、どのような修行を行っていたのだ……」

残されたヘッドパーツを撫でながら、セージはそう呟いたのであった。



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