短編

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寒さも本格的になった、12月の夜。

「え、大晦日?」
「あ?」

共同スペースで、帰省の日程を話している切島達の会話から「爆豪はいつ帰んだ?」「大晦日」「あ、そんな居るの?」という言葉が聞こえてきて。

風呂場から部屋に戻ろうとしていたユキは、思わず口を挟んでしまった。ユキの声に、切島、瀬呂、上鳴のいつもの3人が振り返って、ワンテンポ遅れて爆豪もこちらに視線をよこす。

「おー、猫堂」
「ねぇ爆豪、30日の朝に帰るって言ってなかったっけ」
「ババア達が旅行行くっつって1日延びたんだわ」
「お前、そんくらい言っとけよ彼女にはさ…」

歩み寄ると、爆豪はどうでもよさげにユキから視線を外した。瀬呂が呆れ気味に突っ込む。

爆豪という前の席のクラスメイトと、所謂コイビトという関係になってから少し経つ。

とはいえ、もとより学校から徒歩5分の寮で四六時中一緒にいる生活だったのだ、付き合い始めたからといっても、そこまで大きな変化は無い。というか、休日もお互いインターンだったりと、変化も何も2人きりになるタイミングが無い。

いや、散々冷やかされはしたけど。話すだけで「近い」「蜜月」とか囁かれたらそりゃあ爆豪もキレるわけで、なぜか爆豪に近づくとユキが爆破されそうになる始末で、みんなの冷やかしは一旦落ち着いている。

いや、そこでは無い。今そこはどうでもいい。

「猫堂は?今年もエリちゃんと一緒か?」
「うん、でもエリちゃんも病院で年内最後の検診受けるらしくて、30日まで病院でさ…私も大晦日までは寮にいる予定で」

ユキの言葉に、切島瀬呂上鳴の視線が、ゆっくり爆豪に向けられた。しばしの沈黙。コチコチと時計の秒針が響く。

直後、風呂場からぞろぞろと現れた緑谷達に、光の速さで上鳴と瀬呂が飛びついた。

「あれ、みんなどうしウワァ!!」
「お前ら帰省いつだ!つか30迄には帰れ、絶対帰れ!」
「ナンデ!!?」
「2人っきりにしてやれるチャンスなんだよ!!」
「よっっっけーな気ィ回すな!!!」

騒ぐ瀬呂と上鳴と、何が何だか分かってない緑谷に、爆豪が投げたクッションがヒットする。不思議そうな轟、飯田の視線が気まずくて、ユキは静かにその場を逃げ出した。








「……静かだ」

数日後、12月30日。

早朝に「良いお年を」と挨拶したヤオモモを最後に、2年A組のハイツアライアンスは閑散としていた。窓の外はしんしんと雪が降っていて、マグカップを握る手に力がこもる。

しばらくのんびりと雪を眺めていると、ドアが開く音がして、トレーニングウェア姿の爆豪が帰ってきた。

「おかえりー。雪の日くらいロードワークやめれば?」
「大したことねーわこんくらい」

まぁ、コイツに限って、滑って転ぶなんてことはないだろうけど。ぱたぱたとウェアの雪を払っている爆豪に駆け寄ると、蜂蜜色の頭の上が白くなっているのが見えた。

「爆豪、屈んで」
「あ?」
「あたま、雪積もってるよ」
「…ん」

指摘すると、1年の頃に比べて随分高くなった頭が素直に下りてくる。雪を払ってやって、髪の隙間から覗く耳が赤くなっている事に気づいた。そのまま、なんの気無しに左右の耳を両手で包む。

「うわ、耳冷たっ」
「…お前手ェあちぃ、熱じゃねーだろな」
「や、ホットミルク飲んでたから。コーヒー飲む?」
「飲む」

飲む、で顔を上げた爆豪と、バチリと目があった。屈んだ爆豪の頭を、ユキが両手で固定していて、すぐ近くの赤い瞳に自分が映っている。

−−−2人っきりにしてやれるチャンスなんだよ!!

上鳴の台詞が突然フラッシュバックして、弾かれるように手を放した。

(よ、余計なこと言うなよバカミナリ…!)

意識してなかったといえば、嘘になる。しかし、2人っきりだと明確に言葉にされると、なんだか急にむず痒い。しかもここは共有スペースだ。いつもなら皆がいる場所で、2人で、顔を突き合わせているわけで。

…だめだ。
今猛烈に照れ臭い。

そんな心理を分かっているのかいないのか、ユキの奇行に「何してんだテメェ」と眉を顰めた爆豪は、とっとと着替えに行ってしまった。

エレベーターが閉まる音を聞いてから、へなへなとその場にしゃがみ込む。

「いや、アイツなんであんな普通なの〜…?」

ドギマギしているのが自分だけなのが悔しい。爆豪がこの状況をなんとも思っていないなら、ユキだってなんとも思ってないように振る舞いたいじゃないか。

「……よし」

パチンと頬を叩いて、コーヒーを淹れるべくキッチンに向かう。平然と、スマートに、めちゃくちゃ美味しいコーヒーを淹れてやろう。…ドリップだけど。

負けず嫌いと負けず嫌い、それがユキと爆豪の2人における最大の難関なのだと、クラスメイトの全員が思っていることなど、当の本人達は知らなかった。







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