Coco


□幕間:懐古
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気がつくと、見慣れたネオン街を見下ろしていた。

「ユキ?」
「え?」

呼ばれて振り返ると、友人がこてんと首を傾げている。

「なに?」
「なに、じゃないよ。キミがぼーっとしてたんでしょ」
「うあ、ごめんごめん。何だっけ?」
「ほらぁ話聞いてない!」
「ごめんってば」

友人が「ユキはマイペースだからなぁ」と笑いながら隣に並ぶ。ビル風に2人分の髪が靡いて、お揃いで買ったフレグランスが香った。

今はもうテナントが入っていない、渋谷の片隅に建つ雑居ビルの屋上。ここに食べ物を持ち込んでダラダラと駄弁るのが、ユキの日常だった。

「来週の月曜でどう?って」
「あー、死ぬの?」
「そう」

友人の言葉に、なんの気無しに柵の向こうを見下ろす。

「今ここから飛び降りても簡単に死ねるだろうけどね」
「いや、ユキが来週がいいって言ったんじゃん」
「うん、明後日からスタバのピスタチオ始まるから。それは飲みたい」
「先月は『金曜ロードショーの魔女宅が観たいから』ってリスケしたよね」
「それはアンタでしょーが!」
「あはは、そだっけ?」

ケラケラと笑い合う。こうして自殺の予定を立てては、あれこれ理由をつけて先延ばしにするのだ。いつ死んでもいいなんて言う割には、我ながら現金だと思う。

失うものはもう何も無い。
生きてたってしんどいだけだ。

不幸中の幸いだったのは、こうして志を同じくする同志≠ェ見つかったことだろう。

「…どうせ死ぬなら、」

冷めきったポテトをつまみながら、友人がぽつりと言う。

「臓器提供とかした方がいいのかなぁ」
「…へぇ、そんなこと考えてたの」
「だってさ」

友人の真っ黒で綺麗な目がへらりと笑う。

「死んでからなら、ウチらでも、誰かの役に立てるじゃん」

ゴウと音を立てて、ビル風が2人の間を吹き抜けていく。

自分がなんと答えたのかは、風の音にかき消されて聞こえなかった。





act.92_幕間:懐古


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