Coco
□ジャンプ
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マイクに無理やり座らされた実況席から、試合の戦局を眺める。先頭はやはり轟、そのあとを爆豪、そして猫堂以下A組の面々が追っている。それぞれがあのUSJでの経験を糧にできているらしく、一挙一動に迷いがない。
『ここで2位が入れ替わったァ!爆豪スロースターターだな!?そんで3位…あぁ落ちたァ!?』
マイクが前のめる。猫堂がザ・フォールの中腹で、ロープから足を踏み外す瞬間だった。しかし、わざとだ。両腕でロープにぶら下がって、鉄棒競技のように体を大きく振る。
そのまま体を振り、頂点に達した瞬間にロープから手を離す。猫堂の体が空中に放り出され、気づいた観衆が悲鳴をあげる。しかし落ちると思いきや、猫堂は十数メートル離れたロープを難なくキャッチした。それはまるで、
『空中ブランコォー!スゲーな曲芸師かよ!!』
まるでサーカスのそれだ。マイクが立ち上がって、煽られた観客から歓声があがった。
そのまま空中ブランコの要領でロープを伝い、爆豪に少し遅れて猫堂も第2関門をクリアする。向こう岸に辿り着いた猫堂にドローンカメラが寄って、それに気づいた猫堂がウインクとピースサインで応えた。あざとい。まんまと乗せられた一部の客席から、カメラのシャッター音がカシャカシャと聞こえてきた。
「余裕かい」
思わずツッコむ。マスコミ嫌いのくせに、割りきればショービズ対応もできなくはないらしい。むしろ早々にそういうファンがつきそうだ。
それより、今の動き。体育祭前に見直した個性と、能力『モーショントレース』。猫堂なりに、活用法を見いだしている。
(…しかし、やはり丸腰では分が悪いか)
戦闘技術において真価を発揮する猫堂の個性では、体育祭のルールだとどうしても強みが生かしづらい。葉隠や上鳴、他の生徒に関しても同じくだ。
さて、どうやって戦う。
教え子達の全力疾走を見下ろしながら、相澤は包帯の奥でニヤリと笑うのだった。
第2関門を突破したところで振り返ると、すぐ後ろには綱渡りなどお構い無しの常闇と瀬呂が迫っていた。
「うっわ!ズルくない!?」
「ズルくねーよそういう個性!」
「悪いが追い抜くぞ」
踵を返そうとしたユキの視界の端に、植物の蔓のようなものが映る。別のクラスの女子生徒が、蕀のような髪を伝って同じく第2関門をクリアするところだった。
轟と爆豪は既に随分先を走っている。
(くっそー…!車でもバイクでも何でも、あれば乗りこなしてやるのにいぃぃ)
我ながら無茶苦茶な愚痴をもらしながら、障害物の間の区間で全力ダッシュをかける。4位を走る女の子とはこれでなんとか差をつけたい。
しかし、第3関門はこれまた雄英らしさ満点の難題だった。
『そして早くも最終関門!かくしてその実態は…一面地雷原!!怒りのアフガンだー!!』
「もーやだ!!」
なんだ地雷原って、アホか。思わすカメラを睨む。その奥で高笑いしているプレゼント・マイクが見える気がした。
よく見れば、確かに地雷の在り処は分かるように埋められている。しかし、馬鹿正直に地雷を避けながら走っていては、間違いなく後続に追い付かれる。
モーショントレースで使えるような手も思いつかない。
「クッソ…こうなりゃもうゴリ押しだ!」
迷った挙げ句、ユキは構うことなく地雷原を駆け出した。
それなりに避けはするが、殆どスピードは落としていない。案の定、踏み出した3歩目で、地面からピピピと場違いな電子音がする。それを認識するやいなや、側宙で数メートルほどその場から離れる。着地したそこからも電子音、また前方に跳びすさる。
反射神経だけで爆風から逃れつつ、地雷原を進む。視界の端で、ユキが爆発させた地雷に煽られた生徒が何人か立ち止まっていた。
「ちょ、ヤメロ猫堂!避けろ地雷は!!」
「避けなきゃいけないルールないもんね!」
棚ぼただが、上手く妨害になっているらしい。砂煙の奥から聞こえてきた瀬呂の声に答えたところで、観衆の湧く声がした。
『ここで先頭が変わったー!!喜べマスメディア!おまえら好みの展開だああ!!』
どうやら、爆豪が轟を抜いたようだ。振り返ると、遠くで掴み合いながら走る二人が目に入る。
だめだ、追い付けない。というかあの争いに突っ込んでいくのがかなり憚られる。
(現状3位…十分だ、このまま抜かれず走れば…!)
その考えが、既に間違っていたとユキが気づくのは、随分後のこと。常にトップを狙う人間の辞書に、十分なんて言葉は無いのだ。
轟音と共に影が落ち、見上げると緑谷がユキの頭上を通りすぎ、先頭の2人を追い抜いていった。
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