Coco


□殺意と覚悟
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一対多、入り乱れての乱戦状態。

自分が飛び込んで何ができるのか、そこまで頭が回っていなかった。

今まさに相澤先生に向かって突進しようとしていた敵の前に、ユキは飛び降りた。

「猫堂!?」
「っだらぁ!!」

飛び込んでくる敵の、突き出した右腕に自らの右手を添えて懐に潜り込む。止めるのではなく受け流す。突進の勢いは殺さず、自分より遥かに大きな体躯の男を背負い投げた。

投げ飛ばされた敵が、相澤先生の捕縛布に引かれた敵と衝突し、揃って地面に崩れ落ちる。

「お前何してる!!」
「さっきのモヤ男に皆が飛ばされました!障子曰くこのUSJの中にいるらしいですけど、たぶん敵も…!」
「!! クソ、そうか…!」

誰かの指先から飛んできた弾丸のようなものを刀で叩き落す。射線の先にいた男まで一気に間合いを詰め、腕を切り落とす勢いで刀を下から振り抜いた。断末魔のような声を上げて倒れる男から血が噴き出す。それを見て小さく悲鳴をあげた敵数名に、体を低くして刀を横に薙いだ。腱を狙ったそれに、バタバタと敵が倒れる。

その直後、背後から影が落ちた。しまった、と振り返ったときには、ユキに襲いかかろうとしていた敵が捕縛布でぐるぐる巻きにされ、先生に沈められるところだった。

「先生…っ」
「ったくお前は…!躊躇なく斬るな!」
「だってっ、やらなきゃやられるじゃん!」
「それでもだ!」

先生と背中合わせになって辺りを見渡す。敵の数は相澤先生がかなり減らしていて、あと数人がジリジリと間合いを詰めてくるだけだった。

背中に感じる先生の息遣いが流石に上がっていて、嫌な汗が流れる。ここで相澤先生が倒れてしまったら、本当に終わりだ。

「戻ったら説教だ。要件伝えたなら13号のとこ戻れ」
「でも、先生、あいつらが…!」

こちらを伺う2人のうち、手首男の方がゆらりと動き出した。ぞくりと背中を悪寒が走る。

ユキが思わず飛び出したのは、奴らがいたからだ。他のチンピラ同然の敵とは明らかに様子が違う。

「あの手首男の隣にいるやつ、死体の、匂いが…」
「なに…!?」
「生きてる感じがしなくて…なんかヤバい…!」

そう言った瞬間、手首男がこちらに向かって走り出した。相澤先生がユキを押しのけて対峙する。

「先生っ!!」
「13号のところへ戻れ!!」

そう言われて、分かりましたと素直に言える訳がない。異様な雰囲気を纏う脳みそ男は、依然のそりと立ちつくすだけだ。

ユキがあれを倒せるとはとても思えない。なら、先生が奴との戦闘に集中できるよう、他を排除するのがユキの今すべきこと≠セ。

「こっちだよ!!」

まさに相澤先生に向かって走りだそうとした敵にスライディングをかけて、転ばせたところを馬乗りになる。そのまま足首に刀を突き立てれば、悲鳴をあげて地面をのたうち回る。

「ぐわぁあああ!!」
「てめぇ!!」

刀を、倒れた敵が持っていた身の丈程もある鉄パイプに持ち替え、薙刀のように構える。いつの間にか手首男と脳みそ男以外ユキを取り囲んでいた。

(落ち着け…殺らなきゃやられるんだ)

心臓が大量の血液を送り出しているのが分かる。自分の心音が自分で聞こえるほどだ。視線は敵から外さないまま深呼吸する。

「…っらァ!!」

鉄パイプを頭上でぶん回し、1人に殴りかかると見せかけて背後の敵の喉を突く。そのまま目の前の敵諸共殴り飛ばし、他の敵の脚を掬っては首の後ろに峰打ちを叩き込む。

「なんだこのクソガキっ…」
「そのクソガキにボコボコにされるあんたらは何っ!」

鉄パイプを放り出し、突っ込んできた敵の鳩尾に突き、さらに掌底で顎を捉える。舌を噛んだらしく、口元から血が噴き出した。崩れ落ちる敵のこめかみを、刀の柄で殴打する。

あと1人。対峙した最後の敵が「なんだんだよお前…クソエリートが…!」と絞り出すように呟いた。言い返す前に何かを投げられる。

手榴弾だ、と認識すると同時に避けるが、手榴弾は弧を描いてユキを追うように曲がった。ホーミングのような個性か。

追随してくる手榴弾を躱しながら、敵に走り寄る。確実にこちらを殺したいなら、間髪入れず次の何かを投げるべきだ。ユキならそうする。しかし敵は怯んで、向かってくるどころか踵を返そうとした。

「何だよそれ、」

背後から飛び付いて羽交い締めにし、くるりと振り返る。敵の眼前に手榴弾が近づいたタイミングを見計らって、その背中を蹴り飛ばした。

「殺す気で来たなら、殺される覚悟もして来い!」

自らが投げた手榴弾に自ら突っ込んだ敵は、爆音とともに崩れ落ちた。

「はぁっ、はぁ…」

周りに立っている人間がいなくなった。その瞬間、全身が震え出す。アドレナリン大放出で気づかなかったが、コスチュームから猛烈に血の匂いがする。返り血を浴びるほど戦っていた事を今になって自覚して、腰が抜けそうになった。

「猫堂さん!!」
「!!、緑谷!」

声がした方に振り返ると、湖のようなところから顔を出している緑谷達が見えた。梅雨ちゃんと峰田も一緒だ。

戦闘が終わって、さらにクラスメイトが無事でいたことに安心して、気が抜けていた。その緑谷の呼びかけが警鐘であることに気付かなかった。

自分の前に影が落ちる。
その巨大な影があの脳みそ男であることに気付くのと、左半身に衝撃が走るのは同時だった。

「−−−ッ!!」

脳で考えるより先に体が動いて、刀を鞘ごと腰から引き抜いて盾にする。ガードしたはずなのに左半身からとてつもない衝撃が走り、視界がブレたと思えばそのまま吹っ飛ばされていた。

「猫堂!!」

相澤先生の叫び声が膜一枚隔てた向こう側のように反響して聞こえて、直後に地面に体が叩きつけられる。

あまりの衝撃に息ができず、うつ伏せに咳き込んだ自分の視線の先で、地面にパタパタと血が落ちる。ぐらつく頭に手をやると、耳から流血していた。

(う、っそでしょ…!)

衝撃で鼓膜がやられたらしい。脳と視界がグラグラと揺れて定まらない。

ユキの少し先では刀が鞘ごと真っ二つになっている。少しでも反応が遅れていたら自分がああなっていたことに血の気が引いた。しかしそれでも無事という訳ではなく、起き上がろうとすると左腕に痛み。見下ろすと、肩の辺りが赤紫に変色している。

一発のパンチでこの威力。流石の相澤先生でも無事では済まない。

揺れる視界の中顔を上げると、まさに先生と脳みそ男が対峙していた。捕縛布が脳みそ男の頭を捉え、そのまま引き倒す、かと思いきや、逆に先生が引き摺られて羽交い締めにされる。

「せんせ…!」
「逃げろ!」

地面に押し倒されるその瞬間、先生がユキに向かって叫んだ。グシャリと、耳を塞ぎたくなるような音がした。

「対平和の象徴…改人、脳無=v




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