Coco


□襲来
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本日の午後は『人命救助訓練』、訓練場はバスに乗って行くような距離らしい。「どんだけ広いんだ雄英」という呟きに、お茶子ちゃんがブンブン頷いていた。

今朝のやり取りがあったからという訳ではないだろうがフルスロットルな飯田が誘導したバスに乗り、一同は訓練場に向かう。

「派手で強えっつったら、やっぱ轟と爆豪だな」

切島の言葉に、各々話していたクラスメイトの視線が2人に集まる。

爆豪は耳郎の隣でふんぞり返っていて、その後ろの轟は聞いているのかいないのか目を閉じたままだ。

確かに2人ともプロに通用する個性だ。ただ、轟はまだしも爆豪はそれ以前に問題がありすぎる。と思っていたら、意外にも梅雨ちゃんが「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」と言い放ち、その通りに爆豪がブチキレた。

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」
「爆豪プロになったらライセンス首から下げて活動しなね、敵と間違って逮捕されるから」
「逮捕される前に殺し返すわクソが!!」

上鳴とユキの畳み掛けるようなちょっかいに、爆豪が律儀に返答する。入学4日目ともなると流石に慣れる。対して一番付き合いの長いはずの緑谷は、真っ青になりながらやり取りを見守っていた。

騒ぐ一同を相澤先生が一括し、緊張感と好奇心が半々といった面々が到着したのは、まるでテーマパークのような訓練場。

「やばい、広い!楽しそう!」
「ほぉ…?」
「嘘ですすいません!」

テンションが上がって三奈ちゃんと騒いでいたら相澤先生に見つかった。気配消して近づくのやめてほしい。

「水難事故、土砂災害、火事エトセトラ…」
「!」
「あらゆる事故や災害を想定して、僕が作った演習場です。その名も…『ウソの災害や事故ルーム』!」
「ウワーッ、13号だぁ!」

現れたのは、宇宙服のような出で立ちの先生。お茶子ちゃんと緑谷の興奮気味な説明によると、災害救助に特化したヒーローらしい。ヒーローに詳しくないため興味深げにそれを聞いていると、「メジャーなヒーローなのに知らないの?」と尾白に目を丸くされた。

小言と前置きした上で、13号は自らの個性を説明し始める。

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール=cどんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その個性で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね!」
「そう思いますか?」

コスチュームの奥で、にこりと先生が笑ったような気がした。しかしそれは肯定ではなく、問いかけのようだった。目があったように感じて、思わずポロリと口に出てしまう。

「簡単に人を殺せる個性ですね」
「その通り」

ユキの言葉に、13号が頷く。殺せる、というワードに一同が静まり返った。

「皆の中にも、そういう個性がいるでしょう。超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます…」

13号の言葉を聞きいていると、頭の奥底にしまい込んだ記憶が蘇ってきた。

超常黎明期、個性を制限しようとした政府に対し、個性の自由行使を訴える団体がいくつも生まれた。その殆どは弾圧され、淘汰された。

秩序のためには必要な弾圧だったのかもしれない。しかし、その未来の秩序のために、当時多くの犠牲を払った。

「−−−人命のために個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。救ける為にあるのだと、心得て帰って下さいな」

いつの間にか先生のお小言は終わっていた。拍手喝采の中、先生がお茶目なお辞儀をして見せる。

「猫堂?どしたの?」
「へっ!?なにが!?」
「いや、心ここにあらずな感じ出てたから」
「そ、んなこと」

耳郎に図星をつかれてユキが慌てて弁解するのと、相澤先生が叫んだのは、ほぼ同時だった。

「全員ひとかたまりになって動くな!!!」

あまりの声量に全員が飛び上がった。
相澤先生の視線の先を見ると、噴水広場の中心に、もやもやとした黒い霧のような物が浮かんでいて、そこから複数の人間が湧いてきたように出てくるところだった。

その中心、不気味な手首を見に纏った男の目が、ギロリとこちらを見上げる。

その瞬間、背筋を凍てつくような冷たさが走った。

「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「違う、きりしま、」

近づいてよく見ようとする切島の腕を咄嗟に掴む。

「せっかくこんなに大衆引きつれてきたのにさ…オールマイト…平和の象徴…いないなんて…」

手首の男だけじゃない。周りの人間達がこちらを見る目を、ユキは知っている。

ただ人を傷つけようとする、シンプル極まりない意思−−−あれは悪意だ。

「子どもを殺せば来るのかな?」
「動くなあれは−−−敵だ!!!!」





act.10_襲来


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