Coco


□頑張れ学級委員長
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マスコミによる侵入騒動から一夜明け、翌日。

流石に昨日の今日で雄英バリアーを超えてくる猛者はいないらしく、そうでなくても始業より随分早い時間に登校すると校門は閑散としていた。

コンビニで買ったパックの豆乳片手に昇降口に辿り着くと、丁度上履きに履き替えている長身の男子が顔を上げてユキと目が合う。

「おはよう猫堂くん!早いな」
「おお、そっちも早いね。おはよ委員長」

少しからかうつもりでそう呼んだのだが、飯田は元気に「あぁ!」と返してくるだけだった。薄々思っていたがすごく冗談が通じないタイプだ。

飯田はユキが上履きを履き替えるまで律儀に待ってくれていて、2人連れ立って教室へ歩き出す。

「昨日大変だったね」
「あぁ。切島くんと上鳴くんと一緒にいたのかい?2人の事は見つけたんだが、猫堂くんは気づかなかったよ」
「あー私人波で溺れてたからなぁ…飯田がなんとかしてくれなかったら溺死してたよ、ありがと〜」

あっけらかんと笑って見せると「それは…間に合ってよかった」と飯田も笑う。前言撤回、全く通じない訳ではないらしい。

廊下に人気はあまり無く、どこかから朝練中の部活動のかけ声が聞こえるくらいだ。静かで心地いい。

「むしろ、御礼を言うのは俺の方さ」
「んえ?」

不意にそう言われて、キョトンとして右隣を見上げると、飯田が少し強張った顔で真っ直ぐ前を向いていた。

「…学級委員長を決める時、俺は緑谷くんに投票したんだ。だから正直、自分は0票だと思っていた」
「あー、」
「1票入っているのを見た時は驚いたよ。切島くん達に聞いたんだが、君が入れてくれたんだろう?」

こっそり聞き出すような形になって申し訳ない本来投票というのは匿名性を持たせるものなのに、と慌てて弁明し始める飯田。別に隠したい訳でもなかったので笑って謝罪を制すると、少し黙ってからポツリと口にした。

「…どうして入れてくれたのか、聞いてもいいかい?」
「…ちょっと自信ないんでしょ」

声がやけに弱気で、昨日とはえらい違いだ。肘で小突いてやると、眉を下げて「いや選んでもらったからにはやり遂げるが、」とまた言い澱む。

「うーん、そうだな…とりあえず眼鏡だから」
「そこか!?」
「はは、うそうそ」

その時には既に教室の前に辿り着いていた。先にドアを開けて教室に入ったユキが、振り返って飯田を見上げる。

「飯田、入試の説明会で、大勢の前で質問してたでしょ」
「え?あ、あぁ」
「爆豪に態度悪いぞーって注意もしてたし、昨日の演習でも真っ先にオールマイトに質問してた」

飯田のそれがどうしたというような表情が面白い。彼にとってはそれが当たり前のことなのだろう。

「間違ってるとかおかしいと思うことをさ、ちゃんと言葉にできるのって、凄いことだと思うよ。私だったら、間違ってるのは自分だったらどうしよーとか、誰かの行動がおかしくても自分には関係ないしーって、黙っちゃうもん」
「それは…でも、思慮深い人だという事じゃないか?」
「臆病者ともいう」

そんなことは、と否定してくれようとする飯田を遮って、ユキは続ける。

「飯田的にはなんでもない事なんだろうけどさ、私的には勇気ある行動なの、それ。まぁ単純に、そうやって自然に人を牽引してくれる人がやるべきだと思ったから」

これで理由になってる?とユキが首をかしげると、数秒固まった飯田が、ものすごい勢いでガバーっと頭を下げた。完璧な最敬礼90度。

「ありがとう!君に恥ずかしくない学級委員長になるよ!」
「ちょ、大袈裟すぎるから!」

感極まって教室の入り口で何度も頭を下げる飯田と、それを必死に上げさせようとするユキ。たっぷり数分その応酬を続け、登校してきた爆豪には化け物を見るような目で見られるのだった。



act.9_頑張れ学級委員長


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