Coco


□我らが学級委員長
1ページ/1ページ


入学3日目。
快晴。

「ナンジャコリャ」
「あっ、キミ!」

校門をくぐろうとすると、物凄い数の人だかりとカメラが群れをなしていた。うち1人の男性がユキに気付いて駆け寄ってくる。

「その制服、ヒーロー科の子だね!」
「はぁ」
「オールマイトの授業は受けた!?是非感想を!」
「はぁ」

相変わらずマスコミってやつは、相手の都合など御構い無しだ。自分なりの仏の笑みを浮かべつつ、一切歩みを止めることなくそのまま校門をくぐる。雄英バリアーのお陰で、校内までついて来ることはないようだ。

「猫堂」
「相澤先生、おはようございまーす」
「はいおはよう」

昇降口までたどり着くと、ちょうど外へ出る相澤先生と行き合った。先生の目が校門のマスコミの群れに向き、ものすごーく嫌そうに細められる。

「オールマイトに会いたいらしいですよ」
「今日は非番だ。っても聞きやしないんだろうがな」
「あはは、マスコミはねー、欲しい答え以外は何言われても聞こえないように出来てるんじゃないすか」

上履きに履き替え、ローファーをしまって下駄箱の扉を閉める。顔をあげると、無表情な相澤先生がユキをじっと見つめていた。

どきりとする。しまった、何気なく言ったことが妙に意味深になってしまった。マスコミ、ユキの家庭の事情、担任であるこの人なら知っていて当然だ。

身構えるユキをよそに、相澤先生はため息をついて背を向けた。

「早く教室行け」
「は、はい」
「あとスカートが短い、指定の丈に戻しとけ」
「えー!これくらいが一番かわいいのに!」
「知らん、戻せ」

代わりにお小言を言われてしまった。







「なぁ、猫堂手ぇ挙げてなかったよな?」

昼休み、食堂にて。
上鳴に聞かれて顔を上げたユキが、不思議そうな表情でうどんをちゅるんとすする。

「なにが?」
「学級委員長決めるとき!」
「え、マジで?」

今日はお弁当のメンツが多く、食堂には上鳴、切島、ユキの3人で来ていた。我ながら人見知りしない性格で便利である。

上鳴の問いを受けて切島が目を丸くするので、ユキはちょっと気まずくなった。

学級委員長。将来ヒーローとして多を牽引するのであれば、経験しておくに越したことはない。実際ホームルームでは自薦が殆どで、全員がやりたがった。

ユキもヒーロー志望、頑張ろうと昨日決意したばかりだ。ばかりでは、あるのだが。

「イヤ分かってるよ?やった方がいいのは分かってるけど、飯田の言う通りやりたい≠ニ適任は違うしさぁ」
「なーに弱気んなってんだよ!プロになるために必要なんだから、ガツガツ行きゃいいんだって」
「俺だって自分が向いてるとは思ってねーもん」
「あぁ…上鳴はそうだよね」
「上鳴は≠チて何!」
「てのは建前で、正直向上心より面倒くささが勝った」

うっかり、億が一、学級委員長になってしまったりしたら、何よりも面倒くさい。居残って雑用とか絶対やりたくない。

というのを白状すると「自分に正直か!」「素直すぎるわ!」と爆笑された。笑い飛ばしてくれてありがたい。

「でもよ、どうせ自分に入れないなら俺に入れてくれよ」
「えー、キミら2人も学級委員長はなんか違うよぉ」
「うっ、自分でも分かっていることを…!」
「じゃあ誰に入れたんだよ?」

切島に聞かれて、隠すほどのことでもないので正直に答える。

「飯田」
「あー飯田かぁ!確かにポイな!」
「眼鏡だしなー」
「そうそう。それに−−−」

ウウーーーーー!!!

次の瞬間、耳をつんざくような音が食堂に響き渡った。

「な、なんだ!?」
「びっくりしたぁ…!」
「警報か!?」

上鳴の言う通り、音の正体は警報のようだ。食堂にいた全員がぎょっとして空中に視線を彷徨わせている。すると絶えず鳴り響く音に、機械的な音声が被せられる。

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい』
「セキュリティ3ってなに!?」

分からない。しかし、セキュリティが破られた、つまり外から何かが不正に侵入してきたといことだ。うろたえる2人の腕を、立ち上がったユキがぐいっと引っ張る。

「分かんない、でも避難しろって言われたのは分かった」
「お、おぉ!だな、行こうぜ!」

3人で立ち上がって食堂の入り口へ向かう。が、駆け出してすぐに背後から派手にタックルをくらい、前にいた切島の背中に突っ込んだ。

「ぶっ!」
「どわっ!猫堂!?」
「ごめんっ、てか痛った、鼻打っ、たたたた!?」

謝る暇も痛がる暇もなく、今度は左右から人の波が押し寄せる。

全員が食堂の出入口へ殺到しているのだ。押し競饅頭さながらの状態で、全員が自分の意思とは関係なく押しつぶされている。

「だ、大丈夫か猫堂!」
「うおおヤバい、足が床についてない…!」
「げっ、ここでコケたら死ぬぞ!ほれ!」

人の波がから首だけようやく出ている状態だ。足を掬われすぎてとっくに宙ぶらりんになってある。

あっぷあっぷしているユキのもとに両脇から手が伸びてきて、それをがしりと掴む。すると2人がなんとか引き上げてくれて、まるでスクラムを組んでいるような体勢のまま、押し寄せる圧になんとか対抗する。

「ていうかこれ、全員一旦止まるべきじゃん!?」
「皆さんストップ!ゆっくり!ゆっくりー!!」
「んだコレ」

切島の呼びかけに答えるものは誰もいない。全員がとにかく逃げなければと必死になっている。こんなの集団パニックじゃないか。

先生達が到着するまでずっとこの体勢は無理だ、圧死する。焦るユキの耳に、聞き覚えがある声がした。

(飯田と…お茶子ちゃん?)

悲鳴と喧騒の中、確かに2人の声がした気がした。ハッとして上を見上げると、まさに、何かが頭上を飛んで行くところだった。

何かというか、ユキの動体視力が狂っていなければ、駒のように回転しながら宙を舞う飯田、だったような。

ソレは物凄いスピードでユキ達の上空を通過し、食堂の出入り口の上にビターンとはまった。

「大丈ー夫!ただのマスコミです!何の危険もありません!!」
「飯田!?」

切島と上鳴がギョッとして、あまりの飯田の声のボリュームに2人だけでなく徐々に生徒達の視線もそこへ集まる。少しずつ静かになる空間に、大丈夫、と飯田が繰り返す。

「ここは雄英!名門に相応しい行動を!!」

冷静さを取り戻していく生徒達。その瞬間にふっと体にかかっていた圧力が消え、ほぼ切島上鳴に担がれていたユキの足がストンと地に落ちた。

「い、飯田すごい」
「あぁ、スゲー…超ファインプレー」

知り合ったばかりのクラスメイトの勇姿を目撃し、切島と2人してなんだか感動してしまった。彼が状況に気付いて行動しなければ、怪我人が出るかもしれなかったのだ。その姿はまさしく、

「非常口みたいになってたな、飯田…」
「「ブフォ」」

上鳴の一言で台無しだった。




act.8_我らが学級委員長


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ