Coco


□実践演習1
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−−−午後。
なんだかんだ言いつつ、ユキ含め全員が待ち望んでいた「ヒーロー基礎学」の時間がやって来た。

目の前に現れたまごうことなきナンバーワンヒーローに、圧倒されるのもそこそこに指示されたのは、コスチューム着用での戦闘訓練だった。

各々が個性に合うように作られたコスチュームを身に纏い、入試でも使った市街地仕様の演習場に集まる。

「は、恥ずかしい…」
「お茶子ちゃん私慣れてきたよ。無になれ、無に」

やたら体のラインが出るスーツを見に纏ったお茶子ちゃんが、うめき声をあげながらユキの後ろを歩く。一方ユキも、コスチュームの入ったケースを開けた時こそ躊躇したが、一度着てしまえばどうってことなかった。というか、八百万さんのコスチュームを見た瞬間から感覚が麻痺した。

ピッタリしたノースリーブにショートパンツと、露出多めのボディスーツ。肘の上から指先までを覆う手甲にニーブーツ。ほかの皆のカラフルなコスチュームに比べ、ユキは上から下まで見事に真っ黒。

まるで忍者のような装いのユキに、切島くんが目を丸くする。

「なんか猫堂、メッチャ黒いな!」
「ね、別に色とか指定してないんだけどなぁ」
「どんな要望出したんだ?」
「動きやすくて近接戦向き」
「…え、それだけ!?」

そう、それだけだ。どうやら真面目な人は絵や図まで書いて提出したらしいが、ユキは真っ白な要望書の真ん中に一文のみ。…もしやサポート会社を怒らせただろうか。

切島の要望書の内容をふむふむと聞いていると、オールマイトに向かって飯田くんが挙手し、視線をそちらに向ける。

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」
「いいや!もう二歩先に踏み込む!」

オールマイトが不敵に笑ってA組の生徒たちを見下ろした。

「屋内での対人戦闘訓練さ!!」
「対人…」
「マジかよ…!?」

クラスメイトがざわめく。
これから行われるのは、生徒を「敵組」「ヒーロー組」に見立てた、2対2の屋内模擬戦だ。敵組の勝利条件は制限時間内の核の死守、ヒーロー組は逆に回収、もしくはどちらも確保テープで相手を捕まえること。

いきなりやりすぎ、とも思ったが、オールマイト曰く鍛えるべき基礎を知るための実践らしい。

しかも組み合わせはくじ。100%の運任せだ。

「…I」

自分の引いたボールを探してキョロキョロしていると、同じくキョロキョロしていた男子と目があった。その手にはIと書かれたボール。

「尾白猿夫。よろしく」
「猫堂ユキ、よろしくねー」
「あーユキちゃん一緒だ!」
「え?」

たったか駆けて来たのは、コスチュームという名の全裸になった透ちゃんだった(八百万さんのレオタードもやばいが、さらに上がいた)。その手には確かにIのボール。

三人揃ってオールマイトを見ると、いい笑顔でサムズアップされる。

「A組は21人で奇数になるからね!君達は3人!」
「あ、そういえばそうだね。ラッキーだぁ」
「わーい!よろしくね!」
「相手が誰かは気になるところだけどね」

尾白くんは真面目でいい人そうだ。そのまま流れで3人連れ立ってオールマイトの前に並ぶと、早速初戦の組み合わせが発表される。

オールマイトが左右の手をボックスに入れ、取り出したのは、

「Aコンビがヒーロー!Dコンビがヴィランだ!」

−−−初戦から、波乱の予感である。








訓練の内容は、モニタールームで全員が観戦することとなった。

「初戦からあの二人かぁ」
「あいつら何?昨日も思ったけど知り合いなん?」
「なんか幼馴染らしいよ」

上鳴くんと耳郎の会話を片耳で聞き流しつつ、ユキは眉をひそめてモニターを眺めていた。

緑谷は、相澤先生の言う通り調整の効かない超パワー。対人の演習で使うにはリスクが高すぎる。しかし対人にリスクが伴うのは爆豪の爆破も同じ。とはいえ、爆豪がリスクを気にして手加減≠するようにも思えない。

案の定、緑谷とお茶子ちゃんがビルに侵入してすぐ、爆豪が緑谷に向かって奇襲をしかけた。

ビルの壁が派手に崩れる。間一髪避けた二人が床に倒れこんだ。

「爆豪ズッケぇ!奇襲なんて男らしくねぇ!」
「奇襲も戦略!彼らは今、実践の最中なんだぜ!」
「緑くんよく避けれたな!」

確かに緑谷はよく避けた。しかし間髪入れず、爆豪が次の攻撃モーションに入る。

次はヒットする、と思いきや、爆豪が振りかぶった右腕を掴み、そのまま背負い投げをかました。

(超反応…!というより読んでた!?)

爆豪の攻撃モーションより早く動き出したように見えた。食い入るようにモニターを見るユキの周りで、クラスメイト達も歓声をあげる。

「おおぉ!?」
「緑谷、すげぇ反応だな!」

お茶子ちゃんを核の回収に向かわせ、爆豪と緑谷はそのまま乱闘に入る。にしても爆豪、一人が逃げたのに御構いなしに緑谷ばかりだ。

「あ、あいつ、訓練ってこと忘れてない…?」

モニタールームには音声までは届かないが、どうやら言い争っている。

というより、爆豪が一方的に激昂しているように見えた。

確保証明のテープを使おうとしたがすんでのところで失敗し、体勢を立て直すのか身を隠す緑谷。それを追いかける爆豪の表情が、どうみてもまともじゃない。

「なんかすっげーイラついてる…コワッ」

別のモニターでは、お茶子ちゃんと飯田くんが対峙していた。お互いの個性は既に知っているだけに、飯田くんはしっかり対策を講じている。

その間にも緑谷を追い詰めた爆豪が、腕の籠手に手をかけるところだった。

「爆豪少年ストップだ!殺す気か!」

オールマイトの言葉に、全員がギョッとする。しかしオールマイトの制止も虚しく、爆豪が籠手からピンを引き抜いた。

同時に轟音と地響き、モニターの映像がザザザッと乱れる。

モニターの映像が戻った時には、もとあったビルの廊下が跡形もなく消え去っていた。

「授業だぞコレ!」
「緑谷少年!!」
「グレネードランチャーて…爆豪マジか…!」

相変わらず映像の中の爆豪は緑谷に向かって怒鳴っているが、オールマイトの厳重注意を受けて、今度は近接戦闘に持ち込むようだった。

ヨロヨロと立ち上がった緑谷が応戦しようとするが、それを上回るスピードで攻撃を繰り出す。先程と同じ轍を踏むこともなく、爆破を駆使して今度は確実にダメージを与えている。

(ほんとにクレイジーだ、でも……すごい)

個性を使うタイミング、体の使い方、全てが上手い。

ひと時も逃さないようにモニターを見つめていると、緑谷が身を翻した。一旦距離をとるのか、逃げるのか。当然ながら爆豪もそれを追う。

しかし、緑谷が突然立ち止まって爆豪に対峙した。

「あれ、麗日なんかしてる!」
「え!?」

爆豪と緑谷に夢中になっていて気づかなかった。ユキもそちらのモニターを見ると、何やらお茶子ちゃんが柱にしがみついている。

そして、爆豪のパンチが緑谷に直撃。
緑谷のパンチは−−−まっすぐ上層階へ。

2度目の轟音が響き渡った。



act.5_実践演習1


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