Coco


□エンジョイ学園生活
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結論から言うと、除籍はやっぱり嘘だった。
相澤先生曰く合理的虚偽らしい。便利な言葉だなそれ、覚えとこう。

ちなみに体力測定自体の結果は9位。なにかで爆発的な記録を生み出せたわけでもないので当然だが、運動神経だけが取り柄の個性としてはかなり情けない結果に終わった。

そんな惜敗を胸に刻みつつ、翌日からは高校生らしい通常授業が始まることとなった−−−のだが。

「おはよー、何してんの二人」

登校してきた耳郎が、教室前方で立ち話しているユキと葉隠さん改め透ちゃんを不思議そうに見た。ユキが無表情で自分の席を指差すと、途端に気の毒そうな目で肩を叩かれる。

昨日の体力測定後、教室でオリエンテーションを行う際に、席の移動が行われた。一般的な五十音、所謂名前順というやつだ。

するとどうしたって、あの問題児爆豪の周辺にも誰かが座ることになる。残念ながら貧乏くじを引いたのは、爆豪の前になる透ちゃんと、隣になる耳郎。

「チッ…来んじゃねーよデク」
「そ、そんなこと言われても…」

そして、剣呑な雰囲気を醸し出している爆豪と緑谷、の間に空いた席が一つ。

「いやあれはご愁傷様としか言えないわ」
「私達もヤバいけど比じゃなくヤバいねユキちゃん」
「同情するなら金をくれやい…」

爆豪と緑谷の間の席になってしまったユキへ、クラスメイト一同から同情の視線が集まる。昨日聞いたのだが、どうやら彼らは幼馴染らしい。幼稚園から高校まで一緒で、何故こうも仲良くできなかったのだろうか。逆に難しくないか。

「まぁまぁ、そのうち席替えするかもだし、元気出しなって!ていうかユキちゃん今日お団子かわいいね!」
「うー透ちゃん天使、ありがと、席代わって」
「それはちょっと!」
「元気に断らないで!」

ユキの悲痛な叫びと共に予鈴が鳴り響いたのだった。






その後は、拍子抜けなほど普通に学科の授業が始まった。教壇に立つプロヒーロー達も、ヒーローとは思えないほどまとも≠ノ授業を行う。プレゼント・マイクですら、テンションが高いだけで普通に分かりやすい英語の授業だった。

「先生達ってさ、プロヒーローのライセンスも教員資格も持ってるってことだよね?」
「めっちゃスゲーよな?俺ら普通に授業受けてるけど」

休み時間、隣の瀬呂くんと顔を見合わせる。散々小汚いと思った相澤先生も同じくなわけだ。さぞ大変だったことだろう。

「雄英の先生達は殆ど高校卒業と同時にライセンスを取得して、一般の大学とは違う方法で教員資格過程をとるんだ。それでもサイドキック業と並行して勉強して、教育実習も出るわけだから、かなりストイックだ、自分の鍛錬だって怠れないし…」
「え、待ってもっかい最初から言って」

唐突に背後から聞こえてきた念仏に思わず振り返ると、驚いたような顔の緑谷と目が合った。まるで話しかけられるとは思っていなかったようなリアクションだ。

「は、はへっ!?」
「嘘でしょ今の独り言だったの?」
「ご、ごめん…!うるさかった…!?」
「いや、うるさかないけど」

そばかす顔が青くなったり赤くなったり忙しい。というか独り言のボリュームではなかっただろう。

緑谷は一転しておとなしい、というよりおどおどビクビクしていて、昨日の気迫は見る影もなかった。

「緑谷って今がデフォなん?」
「へっ?」
「いや昨日のソフトボール投げとか、入試の実技試験の時とかと随分印象違うから。個性発動すると人格変わる系?」
「そ、そうデスカ…?」
「なぜに敬語」
「うぅっるせーんだよモブども!黙っとれや!」

後ろの緑谷と話していると、今度は前の席から爆発音。また振り返ると額に青筋をたてた爆豪がこちらを睨んでいる。

「俺の半径10メートル以内で喋んじゃねぇ…!」
「ええ〜…」

理不尽にも程がある。次に後ろを振り返ると、緑谷が申し訳なさそうに「すみません僕のせいで…」ともごもご呟いている。何が僕のせい?ユキはますます怪訝な顔になる。

というかこの席、首をあっちこっちに向けすぎて鞭打ちにでもなりそうだ。








「なんか変、あの二人」

午前中の授業が終わり、昼休み。

雄英の食堂では、かの有名なクックヒーロー・ランチラッシュの料理が安価で振舞われる。これだけでも入学した価値があるというものだ。

生徒で賑わう食堂の片隅で、オムライスを咀嚼しながらユキが憮然と呟くと、三奈ちゃんもカレーをもぐもぐしながら頷いた。

「爆豪と緑谷だよねー。幼馴染なんだっけ?」
「うん、幼稚園からなんだって」
「マジで!耳郎ちゃん誰から聞いたの?」
「緑谷から直接聞いた麗日から」

透ちゃんと耳郎(響香ちゃんと呼ぼうとしたら、こそばゆいからやめてと言われた)が顔を見合わせる。なんにしろ猫堂ドンマイすぎる、と三奈ちゃんがあっけらかんと笑った。

「緑谷が爆豪にいじめられてるって感じでもないし、仲悪いのはそうなんだけど、なんかこう…ヘン」
「なんかって?」
「わっかんないけどぉ…」

ただの不仲ならお互いに無視すればいいのに、それをしないだけの理由があるのだろうか。

釈然としないユキを置いて、それよりさ!と三奈ちゃんが手をパンと叩いた。

「推薦入学の男子、イケメンだったよねぇ!」
「思ったー!」

真っ先に乗っかったのは透ちゃんで、二人でハイタッチする。一方でユキと耳郎はこてんと首をかしげた。

「誰だっけ?女子は八百万さんだよね」
「ほら、赤と白の髪が半分ずつのー」
「あぁ、いたね」

耳郎はピンと来たらしいが、ユキはさっぱり思いつかない。イケメン、そういえば爆豪もキレてなければ顔は整ってるな、と言いかけてなんだか非常に悔しい気がしてやめた。

「いくらヒーロー科といえどさ、潤いは欲しいよねぇ」
「えー、恋愛なんかしてる暇ある?」
「でも彼氏欲しい!青春したい!」

ヒーロー科が過酷なのは重々承知だが、それでも花の女子高生、人並みの恋愛はしたい年頃である。ぽんやりと頭上に花を飛ばす一同に、耳郎が苦笑いしながら冷静な一撃を落とした。

「ま、次の授業で顔に生傷作らないようにしなよ」
「ぐはっ」

三奈ちゃんがうめき声をあげて心臓のあたりを押さえた。芦戸三奈に60のダメージ。

そう、午後の授業は2コマぶっ通しの「ヒーロー基礎学」だ。オールマイトが直々に教鞭をとる、ヒーロー科のみの特別カリキュラム。要するに実践授業だ。

実践というからには、ヒーローの基本である戦闘訓練も行うはず。年頃の女の子が週に何度も傷だらけになっていては…できるもんもできない、きっと。

「なんか、ヒーローになるより彼氏作る方が難しい気がしてきた」
「やめろ猫堂〜!絶望させないで!」

頭を抱える二人に、耳郎と顔を見合わせて笑う。
束の間の平和な学園生活は、和やかに過ぎていくのだった。



act.4_エンジョイ学園生活

 

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