AceCombat

□見えない線
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言葉が途切れ途切れに聞こえた。

何を言われたのか分からずに呆けた俺に彼女は笑みを深めた。

瞬間、俺は彼女を振り払って立ち上がる。

彼女は壊れたように声をあげて笑いだした。


「それの何がひどいって言うのー?」


彼女はもう一度同じ言葉を繰り返す。
これはディレクタスの言葉ではない。ベルカ語だった。
彼女は敵国の言葉を繰り返す。
何度も何度も繰り返しながら笑う。
からかわれた。と気づいた時にはもう、俺は彼女を殴りつけていた。
彼女はそれでも面白そうに笑う。これでは、本当に壊れた人形だ。
「うるさい。黙れ売女!」
笑いを止めない彼女を何回も殴りながら叫ぶ。
俺の叫びを聞くと、不意に彼女は笑うのを止めた。
俺も彼女に驚いて殴るのを反射的に止める。

「負けるのね」

彼女はそう言って俺を見た。
彼女はようやく俺を“見た”。緑色の瞳が鋭く俺を射抜く。
彼女はもう笑っていなかった。その代わり、獲物を見つけた犬のような視線で俺を見ている。
一瞬の隙もなく、こちらが微動でもしたら殺しそうな威圧感とともに見ている。
「私の勝ちよ。謝りなさい」
彼女は微動だにしない俺に飽きたように視線をそらした。そして謝罪を要求してきた。
「言い返さなかったのは、あなたのせいよ」
彼女は口の中を切ったのだろう。血を吐いて立ち上がった。
「私のせいではないわ」
彼女は最初と同じように立ち上がって俺を見る。
「これは戦争だと言ったのは誰?」

彼女は堂々とした姿で俺を見下ろす。

「あなたはP.J.に言いながら私を非難したわ」

彼女は殴られた顔を庇う事をしない。

「私は傭兵なのよ」

彼女の肌は白く、今は青と赤が綺麗だ。

「誰が英雄になりたいなんて言ったの?」

彼女は俺を見ている。

「あなたは卑怯者ね」

彼女はそう言って俺に背を向けた。

「じゃあ、お前は…」

俺の言葉に彼女は振り返る。



「お前は、臆病者だな」



彼女が息を飲む音が聞こえた。

「……そうよ」

ゆっくりと発音した彼女の言葉は俺の国のモノでもこの国もモノでもない。それは彼女の母国語だと直感的に思った。
彼女はそれ以上俺を見ないで部屋を出ていった。
「この世は、こんな境目ばかりだ」


彼女と俺のように



国と国のように



言葉と言葉のように



戦争と戦争のように



子どもと大人のように



女と男のように



考えと感情のように



見えない糸が境目を作る。



こんな線は壊してやろう。



こんな線は間違っている。



この世は悲しい。


人は悲しい。


世界は悲しい。


見えない線によって区別がされているこの世界は悲しい。


間違えは力によって直せる。


俺にはそれが出来る。






「さようならだ、サイファー」

獅子舞。獅子舞。
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