Zillo'll

□Ja'pupe.
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「そんなの、気にしなければいいだけの話だ」

鼻を鳴らして視線をサレスから愛刀の月光へと戻す。

「セラ自身は気にしていないのですか?」

不思議な顔でこちらを見る彼女の表情をしっかりと見つめ、渋面をした。

「何がそんなにも気になるのか分からんな。分かりたくもないが」

「セラらしいですね」

小さく吹き出した少女の綻んだ口元から眼が離せなくなった。

「貴方がそうだから、余計に私が気にするんですよ」

サレスは続けて呟いた。

「冷たい視線が痛いほどに」


「…今、何か言ったか?」

サレスの唇が微かに動いたのを見て、セラは手にしていた月光を置いた。

「…貴方がそうだから、余計に私が気にするんですよ。と」


彼女は少し目を丸くしてから、そう言うとフッと笑った。

「傷付きました?」


サレスの言葉に、セラはまた鼻を鳴らして月光の手入れを始めた。









「くだらんな」

昔の事思い出してしまい、自己嫌悪になる。その気持ちに渋面しながらセラは呟いた。

「セラ、今何か言ったか?」

真剣に妹の軌跡を見つめるロイにも、セラの呟きは聞こえたらしい。

「…いや、何も」

鼻を鳴らしてロイに背を向ける。

「俺は帰るからな」

「セラ!」

「お前も女の尻ばかり追うことが癖になる前に止めるんだな」

「癖にって…!!おい、セラ!!」

顔を真っ赤にして吠えるロイを背に聞いて、セラは酒場に向かって歩き出す。
後ろは一度も見ない。






「あ、セラ!」

酒場に入るとさっきまで尻を追っかけていた少女がいた。

「やぁ、セラ!」

その少女の隣には、当然のようにさっきまで一緒にいたロイの姿があった。

セラは重いため息をついて、サレスの隣に座る。

「ずいぶんと疲れている顔をしていますね」

サレスはセラの顔を覗き込んできた。

「ふん。普通だ」

鼻で笑い、顔をサレスから背ける。サレスは不満げに「ふーん?」と言ったが言及はしない。

「そういえばね、今日、私のファンって人に会ったのよ」

彼女はコロリと表情を変えてロイに話し始めた。

「私を好きになってくれる人もいるんですね。嬉しくなりました」

「私もサレスの事が好きだよ」

自分の尊敬する兄からの告白に、サレスは少し驚いた後に満面の笑みをした。

「嬉しい、私もロイ兄様の事を好きよ!」
「そうか。これでサレスと私は両想いだな」

嬉しそうな兄妹を見て、セラは一人ため息をつく。もうこの兄妹になにを言っても意味がないだろうと感じているのだ。
他人の振り見て我が振り治せ。とは言うが、ここまで自分はなのだろうか。


いや、違うはずだ。

たしかに趣味も特技も習慣も癖も姉の事を考えることではあるが、最近は少しだけ自覚も生まれてきたのだ。
それに、最近は姉以外の事も考えなくてはいけなくなってきている。

「どうしたんですか」

気がつけばサレスの顔が間近にあった。
気が遠くにいっていたとはいえ、ここまで気がつかないぐらい深く考えていたようだ。

「もちろん、私は貴方も好きですよ」

サレスは微笑む。

「…だから何だ?」

「だから、そんな不貞腐れないで下さい」

サレスは微笑んだままだ。
その彼女の後ろから、こらえ切れなかった笑い声が聞こえる。

「貴様なんぞの若輩冒険者に構ってもらえなくて不貞腐れているように見えるのか」

「あら?私はてっきり、私とロイ兄様の仲の良いのを見て、シェスタ−姉様を思いだしているのかと思いました」

彼女は意味を含めた言い方をすると顔を少し遠ざける。遠ざけるといっても、彼女の顔はセラの正面に居座っているのだが。


「そんな勘違いが出るくらいなら、貴方の隣も役得です」


小声でそう言うとサレスはロイの隣に座りなおした。

「ロイ兄様、セラの拗ねている気分を直しました!」
「サレスは偉いな!」

花の飛ぶような空間を作り出す二人についていけなくなり、セラは酒場から出る。
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