AceCombat
□見えない線
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「ひどいって何がよ」
赤い髪をした彼女は、嫌味なぐらい背筋を伸ばして崩れ落ちている俺の前に立つ。
「私の何が、ひどいっていうのよ」
彼女の視線が座りこむ俺を見下ろす。その緑色の瞳にはいつもと同じ無感情な輝きが主張していた。
「言ってみなさいよ」
彼女は白い肌を隠すことをしない。白いタンクトップからは彼女の下着の色が薄く見えていた。
俺の前だと言うのに、彼女はそれを気にもしていない。
「何か言いなさいよ。負けなら謝って、勝ちなら…」
彼女はそこで言葉を切り、怖いくらいに優しく微笑むとその顔を俺に寄せてきた。
「勝ちなら、その時はイイコトしてあげる」
自分より幼い子どもに言い聞かせるような優しい彼女の声に思わず身体が震える。
彼女はそんな俺に構わず俺の頬に軽くキスをして離れた。
「ねぇ、ラリー。私の何がひどいの?」
彼女の瞳が俺を捕えた。
俺は少し逃げるように身体をよじるが追撃される。
これは倫理観の違いなのか。
それとも性による価値観の違いなのか。
彼女と俺のどこに境があるのだろうか。
見えないその境を消そうと動く奴らが確かにいる。
彼女と俺の、この境もいっそ消し飛ばしてくれたら良いと思う。
「ね、私はね。」
彼女はいつにも増して猫なで声で俺にしゃべりかけてくる。
まるで彼女が誘ってくる時のように声はねっとりと俺に絡みつく。
「私は、地上でも空でも傭兵なのよ。」
瞳は俺を捕えているのに、彼女の視線は俺を見ていない。俺を通して遠くにあるものを見ているようだ。
「金さえ払ってくれたら人を殺すし身体も売るわ」
彼女はゆっくりと俺の背中に手を回した。
じわりじわりと広がっていく毒のように、彼女の全てが俺を支配しようとしているように思えた。
「それの、何が、ひどいって、言うの?」