AceCombat

□こんな日があっても良いじゃないか!
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「…何してんだ?」
夕食を終えたピクシーが珍しく自分の部屋へと直帰して最初に見たものは、ベッドの下に上半身を入れている相棒の姿だった。
「おい、相棒。何をしているんだ?」
返事がないのでもう一度だけ問いかける。見えている下半身はピクリともしない。こんな場所で死なれていては自分が迷惑だと考えたピクシーは動かない下半身を蹴る。蹴ると言っても左足の脛を軽く蹴っただけだ。しかし、相棒はベッドに頭をぶつけたらしく、鈍い音がした。
「な…は?えと…ピクシー???」
相棒は勢いよくベッドの下から出てきた。耳には装着型のイヤフォンがしてある。なるほど、音のせいで声が聞けなかったのか。と納得したが、問題はそこではない。
「いくら相棒とはいえ、こんなところでプレイベートを荒らすことは感心しないな」
サイファーのイヤフォンを強引に取りはがして非難した。彼は罰悪そうな顔をしたものの、謝りはしない。
「おい、サイファー。いくらお前でもやっていい事と悪い事くらいは分かるんだろ?」
疑問形にしたのは、もしかしたらコイツは区別がつかないのかもしれないと一瞬考えたからだ。一般的にはサイファーくらいの年齢になったらある程度の常識やモラルがある。だが、コイツの場合は一般的とは違う。軍に入ってから戦争しか経験をしていない男だ。前に聞いた戦歴なんて、普通の軍人が三ケタ生まれ変わって戦争に行かないと数えられないであろうものだった。
「勝手に部屋の中に入ったことを怒っているのか?」
「それについては怒っていない」
「じゃあ、返事をしなかったことか?」
「それについては少し怒っている」
「他に何があるんだ?」
サイファーが本気で考え込む姿を見てため息が出た。やはりコイツは常識が欠けているようだ。
「まぁ、ベッドの下を勝手に探した事はプレイベートを荒らす行為として相棒とはいえ、行ったら怒られる行為だろうな」
そんな簡単なことを知らないなんて思っていたのか。とからかう相棒を見て、こいつの横っ面を殴っても俺に罪はない気がした。
「で、何をしてたんだ?」
「ピクシー。エロ本はどこだ?」
唐突すぎて相棒が何を言ったのか分からなくなった。
「は?」
「だからエロ本だよ。あのな、女性の裸体なんかが載っていたりヤっている写真が載っている本、雑誌。分かるか?」
「いやいや、待て待て。何を探してんだよお前」
いきなり人の部屋に来て「エロ本探していました」なんて誰が信じると思っているのだろうか。そもそも、どうして俺なんだ?そしてどうしてお前が探しているんだ?
「自分のヤツだけじゃ出来ないのか?」
ため息をつく俺にサイファーは顔を横に振る。
「俺のネタは俺の彼女で十分だ」
簡潔に、しかも自慢げに言われても困る。とても困る。別にサイファーに恋人がいるという話を聞いていたからどうでも良いのだが、そんなどうでも良い話を自慢げに言われても困るのだ。
「じゃあ、何だよ」
「何だ?ピクシーは持っていないのか?」
相棒は少し首を傾げたあと、何かに気がついて言いにくそうに視線を俺からそらす。
「そうか…。妖精ってのはそこから来ていたのか…」
とりあえず、相棒がしている勘違いにフックでツッコミを入れた俺の判断は正しいだろう。
「違うなら出せよ!貸せよ!」
「お前、読みたいだけだろう!」
傭兵をしているとどうしても生理現象で困る時がある。そのために普通は街に出かけたりするのだが、ここは雪山である。当然近くに街があるわけがない。少なくとも気軽に行って帰ってこれる距離にはないのだ。そのため、基地内でそういう本が飛び交うことはよく見られた。もちろん、ピクシーも持っている。
「クロウ1が『人のネタを見ればそいつの趣味や嗜好が分かる』とか言ってたから本当かどうか調べてるだけだろ!?」
「最初からそう言えよ」
「最初から言って何が楽しいんだ?」
何が楽しいのか知りたくないが、多分俺が部屋に戻る前に相棒が本を見つけていたら明日には俺の性癖が基地中に広がっていたことは確かだろう。
「それに、もしお前の性癖がディープ過ぎたらお前を相棒と呼べる自信が無かった」
「それが本音か、小心者」
部屋に戻って来てから何回目かのため息を重々しく吐いてから、服を乱雑に入れてある簡易クローゼットの中から雑誌を何冊か取りだしてサイファーに渡す。
「探してるのはこれだろ?」
渡されたサイファーは表紙を確認して安心したように頷いた。
「良かった。別にマニアックなものじゃないんだな」
「何を安心しているんだか」
サイファーの顔が少し嬉しそうに歪んだのを見て視線をそらした。エロ本を見て微笑むなんてサイファーの方が変な趣味をしているのではないだろうか。思考を掠めていった疑惑に先ほどまで見れていた相棒の姿が見れなくなった。
「これで俺は25ドル儲けたって事だ。ありがとうな相棒」
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