第四章

□Vol.14 京への足音
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「そこ、もっとしっかり引きなさい!」

「はいっ!!」

「狙いを定めて・・・・射て!!」


ばしゅ!!


与一先生の合図と共に、矢を放った。
私の放った矢は、回転しながらまっすぐに飛んでいき、的中央の限りなく近い場所に当たる。



箱入り娘のススメ
Vol.14 京への足音




「ヒュウ!」

それを見ていた周りの護衛仲間たちが口々に声をあげる。


「すっげ〜〜!あいつ上達したな!」

「弓って女の方が向いているのかな?」


一人がそう言うと、
もう一人が「ばかっ、お前なにも知らないんだな?!」と突っ込みを入れる。


「あいつ、力じゃ俺たちに叶わないからって言って、弓の鍛練は俺たちの三倍以上はやってんだよ」

「げえ?!さ、三倍!?」

「あぁ。俺たちが鍛練終わって夕食食べてる合間も、護衛のないときは、あいつ毎日鍛練してるよ」

「し、知らなかった・・」


みんなが驚くのもムリはない。

私だって自分がここまで一生懸命やると思っても見なかったし、
何より与一先生の指導が上手すぎて、自分でも恐いくらい上達が早いんだ。
上達が早いから面白い。
面白いから、どんどん自主的にやっちゃう・・・っていう、良い連鎖!



「うん、まずまず当たるようになってきたね」

「あっありがとうございます!」

「さ、皆もコーンを見習って頑張って」

「「はい!!」」



"コーンを見習って"だって・・!
ぐふふ。
なんだか照れ臭いなぁ・・・


そう思いながらも、私は鼻が高かった。
だって自分で頑張った結果を、みんなが認めてくれているんだもの。
こんなに嬉しいことはないよね?



「その様子だと、調子が良いようだな」

「あ、泰衡さま!」


鍛練を終えて、汗を拭おうと自室へ向かっているところで、泰衡さまとすれ違う。


「はいっ!最近は自分の上達が目に見えて、スッゴク楽しいです!」


取り巻きの護衛仲間に一礼しつつそう応えると、
心なしか泰衡さまが微笑まれたような気がした。

・・・いや、本当に気のせいかもしれないけど。


「そうか。生き生きしているな、お前は」

「泰衡さまのおかげです!」



泰衡さまに"自分のことを好きにならなきゃ、大切な人は守れない"って言われてから
私なりに色々考えたんだもの。

あの一件がなければ、
私はいまでもあのままの私だったに違いない。



「己の目的がはっきり見えてきたので、もう迷いは吹っ飛んじゃいました」

「それは良かった」


それだけ言うと泰衡さまはまた、護衛たちを引き連れて行ってしまわれた。


最近は弓の鍛練中心で、あんまり泰衡さまのお側に仕えるお役目がないんだよね・・・

ちょっと淋しいかも・・・なんて思いながら、

それでも。
鍛錬だっていつか泰衡さまのお傍にお仕えした時に役に立つんだから!と意気込んで。

そして・・・・



「ふふ、いい調子っ!」


いろんな人から誉められた嬉しさから、軽い足取りで自室へと向かった。



"私が強くなりたいのは大切な人を守るため"

"いまの私にとって大切な人達は、泰衡さまや、町に残してきたおばあさんや、護衛仲間のみんな、だから"


"もう迷わない"




目的がクリアになった途端、
何もかもがやり易くなっていた。


今の私なら、好きになれるかも!





この時の私は
今この時を生きる事に精いっぱいだったから、いい意味で辛い過去を忘れる事が出来た。


充実した毎日。


久しぶりに、毎日に生きがい感じていた
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